風切りの瑞花 とある密封命令書
土田一八
第1話 とある密封命令書(怒)
母艦実習で大活躍をした私は横田飛行場にある逓信省中央航空機要員養成所に意気揚々と帰還した。
何しろただの大活躍ではないのだから。
私は海賊空母を九九式艦爆で単独撃沈という快挙を成し遂げたのだ。その他にも公認単独撃墜数が10機を越えて累計12機となってエースパイロットの称号を公式に認可されたのだ。しかも、防衛省から金鵄勲章叙勲内定と報奨金10億円支給決定通知を受けていた。
10億もあれば自分の飛行機を持てるし、中央校本科生は士官教育課程の中高一貫教育であり高等部を卒業すれば少尉になれ、自分の傭兵団を持てる。そんな楽しい事を考えていた。
帰還申告もそこそこに所長に呼び出された私は緊張気味の所長と今にも泣きだしそうな地方校の女子生徒と向き合っていた。
「瑞星生徒。本省より密封命令書が来ている。ただちに開封しなさい」
いつも威厳のある所長の声だが、この時ばかりは声が震えていたようにも感じられた。私は所長から密封命令書を手渡され、指で封を破いて命令書を確認する。
「なんだこれは⁉」
所長室に私の怒声が響き渡る。少女はビクつき所長の額には汗がにじみ出ていた。
「逓信省中央航空機要員養成所中等部生徒瑞星瑞花に逓信省命令を下達する」
「はぁ⁉借金を肩代わりをしろ?」
その金額2億円。その代わり航空駅逓の権利が譲渡され、整備士付き。
「拠点飛行場を取得し、整備中」
その金額5億円。取得費用が3億円で整備費が2億円。
「使用機は
その金額2億円。
「住居及び航空機格納庫建設費用1億円」
チーン。これで10億円使い切った。私の与り知らぬ所で。これでは運転資金の原資は空賊機撃墜報奨金だけになってしまう。両親の遺産や私の学生手当も残ってはいるがこちらは生活費などに充当するから手を付ける訳にはいかなかった。
密封命令書はさらに続く。
「以上を以て航空駅逓駅長として航空駅逓開設を命じる。なお、航空駅逓開設に当たり、規則により逓信省中央航空機要員養成所は中等部三年次卒業で普通高校に転学処分とする。なお、転学先等の詳細は追って通知する」
私にとって最悪の一文が入っていた。
「人の金を勝手に使うな!私の人生計画がぐちゃぐちゃじゃないか‼」
私は感情を爆発させた。こうでもしなければ私の心は病み、やがては壊れてしまうだろう。ある意味、一種の防御反応なのだ。これで中央校本科生の特権である最短コースで将校になる望みは遠のいてしまった。
「はぁ」
私はうなだれるが、密封命令の文章はまだ続きがあった。無気力になりそうにながらも命令文を読む。
「上記処分に付き、緩和処置として、二度の金鵄勲章叙勲という稀に見る武功を鑑みて士官勤務陸軍見習士官に任ずる事とする。発令日は来る4月1日とする…」
そうきたか。士官勤務見習士官は少尉の下、准尉の上に位置する階級で事実上少尉心得である。曹長の階級章ながら特別徽章が付くが普通の士官候補生、少尉候補生とは立場が異なり、軍服をはじめ装備待遇及び責任権限などは正規将校と同じである。これは制度上、少尉に任命できない為の処置であろう。因みに航空駅逓の駅長も将校相当官の文官職だ。何だかどっちともとれるぐちゃぐちゃな人事だ。
「はぁ」
私はまた溜息をついた。命令だから拒否すればどうなるか火を見るより明らかだ。だが……どことなく納得がいかない。私は沈黙する。
「お願いします!助けてください」
何の反応も示さずにせずに密封命令書とにらめっこしていると、遂に少女に泣きつかれてしまった。泣き落としかよ。
「瑞星。ここは、引き受けてくれんか?」
所長が低姿勢で畳み掛けて来る。
少女に泣きつかれ、所長に頭を下げられ、結局の所、押し切られる形で私は応諾するしかなかった。
しかし、後日、問題児を押し付けられてもっとぐちゃぐちゃにななるのだった。
おわり
風切りの瑞花 とある密封命令書 土田一八 @FR35
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