天使の悪魔的思考【KAC20233】

椎名類

天使の悪魔的思考


 紫とピンクが入り混じった空が、どこまでも広がる。水平線のような境界の真ん中に、白い影がふたつだけ。それ以外の色は、全て空と化していた。


 ひとつ、白い影が言う。


「絶対、悪魔。頭に天使の輪を浮かべていようと、白い羽で僕の周りを飛んでいようと、百パーセント、君は悪魔だ! 異論は認めん! 今すぐ神に言ってこい!」

「えー。なんて言えばいいの」


 気の抜けた返事をした天使が地面をなぞると、触れた場所から波紋が広がって、液体のように揺れ動く。


「いいか。低姿勢で行け。“誠に申し上げにくいのですが、おそらく”」

「だっる。言うわけないじゃん」


「だっる、って! 天使はもっと優しく清廉で、キラキラしていろよ!」

「思考がうぜえ、お前」


「喋るな! もう! 堕天してんのか!? 話す言葉が全部悪魔的なんだよ!」

「してませんー。そもそも、お前が願ったんじゃないか、魔法を使えるようになりたいって」


「願った、っていうか、言ってみただけだろ!? そしたら『殺す』って言われて、そのまま強制転生。もう拉致だろ。普通に痛かったし、僕の身体はもう……」

「無いんじゃん?」


「無いとか言うな!」

「でも、魔法使えるようになったじゃん」



 天使は、彼の願いを叶えていた。一応。



「君と二人だけの世界でね! あんまり嬉しくない!」

「僕は嬉しい」


「笑顔がうぜえ。戻せ、天界に!」

「返さん。お前は僕のにすることにした」



 天使は、この空の如く混ぜ尽くしたな感情を叶えていた。二人だけしか居ないこの世界に、彼を惹き込んだのだ。


 天使らしいと言えない。どちらと言うなら、彼が言うとおり悪魔的なのだろう。




「よーし、決めた。君を殺す」


 これは予想外。それは、好都合だ。


「おっ、いいね。天使殺しの罪で、二人とも悪魔になろう! お前が悪魔になるなら、僕もなる。一緒に神のところに、低姿勢で行こうじゃん」


「もう黙って死ね。この最低悪魔野郎!」



 


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