MoMAのポロック

九月ソナタ

ジャクソン・ポロックの絵

現代美術館で案内をしていたドーセントから、お客が暴れて困っているという連絡を受け、学芸員の聡子が駆け付けた。


「これが絵か。こんなぐちゃぐちゃの絵のどこがいい。猿でも、描ける」

中年の男性の白い肌が赤くなっている。

ドーセントがジャクソン・ポロックの絵が20億ドル以上の値段がついたと話したところ、馬鹿にするなと怒りだしたという。


「あんたは、本気でこの絵をいいと思っているのか」

男が聡子に言った。

「ええ」

「どこがいい?」

「たとえれば、ジャクソン・ポロックのスタイルはコロンブスの卵です」

「なんだ、それは」

「ピカソも卵を割り、ポロックも割ったんです。その前の人ですけど、セザンヌも割りました」


「わけがわからん。どういう意味だ」

「画家って、いつも何か新しい表現法はないかと模索しているんです。ピカソはいろんな時代を経て、あの3Dに見える方法に辿り着きました。あれは、革命。普通の人は何だと思う絵でも、画家達にしたら、こんなスタイルがあったのか。やられた、と思ったことでしょう」

「そうなのか」

「ピカソで一応、スタイルが極限に達したので、もう他のアイデアはにはないだろうと思っていたら、今度は『抽象表現法』というのが生まれたのです。そのパイオニアが、ジャクソン・ポロックです。


ポロックはキャンパスを地面に置き、筆をほとんど使わず、染料をぶちまけ、その時感じていることを、下描きもなしに描いたのです。まるでシャーマンがパフォーマンスするみたいにして。彼のおかげで、絵画の中心がパリからニューヨークに移ったのです」


「すごいでしょ」

「そうか。そういう画家か」

「でも、ボラックは、、毎回、特別なテーマを持たずに、感じることを描くというこに精神的に苦痛を感じて、アル中になって、交通事故で死んだと思われます」

「死んだのか」

「44歳で」

「若かったな」

 とその男性が残念そうに言った。


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