破壊衝動との付き合い方

鹿嶋 雲丹

第1話 破壊衝動との付き合い方

 私の中には、破壊衝動というものがある。

 なぜだかわからないが、無性に叫んで髪の毛を掻きむしり、目の前のものをすべて叩き潰し、握り潰し、踏み潰したくなるのだ。

 しかし、現実でそれを行うとおそらく老体である我が肉体はダメージを負うに違いない。

 衝動にかられて行動し、その結果痛い目をみるのはとても嫌なのである。

 実はこの、なんだか『ぐちゃぐちゃ』するのが好きという衝動は幼少期から見られた。

 そんな当時の私は、いかにしてその欲求を満たしていたのか。

 幼い私の破壊衝動の犠牲になったのは、ぷるぷる震える様が可愛らしく、底面のプラスチックの突起をバキリと折るのも楽しかった、“プッ○ンプリン”である。

 私は皿の上で震えるそれを、思う存分スプーンで崩した。

「汚らしいからやめなさい」

 と、何度も嫌な顔をした母から言われたが、私はぐちゃぐちゃするのをやめなかった。

 なぜなら、楽しかったからである。

 そしてそれをごくごくと飲むように摂取して、とても満足していた。

 今では世間体もあるし、プッ○ンプリンを目の前にしても“ぐちゃぐちゃにしてやりたい”とは思わなくなった。

 そこは、大人になったようである。

 しかし、破壊衝動がなくなりはしない。

 そして目の前のカレーライスのルーとライスを、よーくかき混ぜる。

 そうして私好みの状態になったカレーライスは、まさに“ぐちゃぐちゃ”と表現するにふさわしい。

 怒る母も傍にいないし、一人で食べる分には誰かを不快にさせることもない。

 破壊衝動もほんの少し解消されるし、これくらいなら世間から指をさされることもないだろう。

 空腹であることもメンタル的によくないし、これも満たされるので一石二鳥だ。

 次は豆腐かな。鍋に入れる時は必ずスプーンでグリッと掬っている。

 形あるものを崩すのが好きなのだ。

 固定概念の打破、とでも表現すると、ちょっと格好よく聞こえるかもしれない。うふふ。

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破壊衝動との付き合い方 鹿嶋 雲丹 @uni888

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