それは冷たいけれど、温かい

!~よたみてい書

とある一日

「わたし、あれ食べてみたいですっ!」


 石造りの家々が立ち並べられた町通りの中をレオナルドさんと一緒に歩いている最中、明るい雰囲気を感じさせる華やかな装飾が施されたお店に向けて指をさす。


 レオナルドさんは指先が示したお店を目で追った後、こちらに向きなおして小首を傾げていく。

 その時、金色の色をした前髪がなめらかに滑り落ちていった。


「あれって、アイスクリームのことかい?」

「はいっ!」


 コクコクと首を縦に振って、レオナルドさんの質問が正解だということを知らせていく。

 もちろん柔らかい笑みも添えて。


 するとレオナルドさんもわたしの意思を汲み取ってか、素敵な笑顔を向けてきた。


「うん、そうだね。僕もちょっと気にはなってたんだけど、さすがに僕一人だと注文するのに躊躇(ためら)っちゃうからね。フィオーラが一緒に居てくれてよかったよ」

「いえいえ、そんなっ!」


 わたしが一緒にいることに感謝されました。

 どちらかといえば、わたしと一緒にお出かけしてくれてありがとうございます、と感謝する側なのに。

 だとしても、なぜだか体の中が心地良いもので満たされていく。


「すみませーん、アイスクリームを2つください」

「はい、アイスクリーム2つですね。少々お待ちください」


 清楚な身だしなみをした女性店員は一瞬レオナルドさんに視線を向けた後、わたしに向けて微笑んだ。

 その笑顔にはどんな意味があるというのだろうか。


 女性店員がコーンの上に、柔軟性のある固形物を乗せていった。

 それを繰り返し、二つのアイスクリームをこちらに手渡してきたので、受け取る。


「わぁ、美味しそう!」

「フィオーラ、口を開けてごらん」

「えっ?」


 口の中に突然甘くて冷たいものが襲い掛かってくる。

 だけどそれは全然イヤじゃない。


 レオナルドさんはからかうように笑顔を作り出す。


「はははっ、フィオーラ、口周りが」


 口だけではありません。

 心も幸せで。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

それは冷たいけれど、温かい !~よたみてい書 @kaitemitayo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ