私は2度と、家には帰らない
佐々木 凛
第1話
かれこれ三十分、デートに向かうための服を探している。
といっても、服選びに迷っているわけではない。ちゃんと昨日のうちにコーディネートは決めておいた。
でもそうして準備しておいた服の一式が、なぜか朝起きた時には見当たらない。置いておいたはずの場所にない。
こういう時は、このぐちゃぐちゃに散らかった部屋に嫌気がさす。お母さん、どうしてもっとちゃんと躾けてくれなかったの?
とにかく、これ以上探していたら、デートの時間に遅れてしまう。
私は慌てて、手近にある中で一番マシな組み合わせを探し当て、すぐに出発しようとした。
でも、部屋の鍵が見当たらない。これもいつもの場所にない。仕方なく合鍵を持って家を出た。
慌てて出たせいで、リップクリームを忘れてしまった。乾燥肌で、一時間も外にいたら唇がカサカサになってしまう私にとっては致命的だ。今日のキスは諦めよう。
マンションのエントランスを出ようとした時、鮮やかな水色の封筒が、ポストから半分飛び出しているのに気がついた。
なぜか気になって、手に持ったままデートに向かってしまった。
これも悪い癖だ。何か気になると、すぐ自分の近くに置いておきたくなってしまう。そうして興味がなくなるとその場に放置して、結局何処にいったか分からなくなる。
そんなことを考えていると、いつのまにか待ち合わせ場所に着いていた。
二十分の遅刻。彼にとっては、もう慣れっこだ。彼は優しい。いつも笑顔で、私の失敗を許してくれる。
私が大急ぎで走って乱した息が整うのを待って、彼は私に手を差し出してくれた。
その手を掴もうと私が手を伸ばした時、視界にあの水色の封筒が入ってきた。彼も気になってようなので、ここで開封してみることにした。
鍵が開けっぱなしで不用心ですよ。僕が閉めておいたので、安心して眠ってください。
お礼に、あなたにはあまり似合わない赤いワンピースを頂きます。
私は2度と、家には帰らない 佐々木 凛 @Rin_sasaki
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