ぐちゃぐちゃにした世界のお話。

絢郷水沙

もうなにもかもぐちゃぐちゃにしたい。

 ホールケーキはさすがに大きすぎると思ったからピースのショートケーキを二個買っていったのに、どうやらもう一つ必要だったみたいだね。


 はあ……、サプライズなんてするもんじゃないね。


 せっかく買ってきたケーキは、落としてもうぐちゃぐちゃ。


 部屋の扉を開けた瞬間、私の心もぐちゃぐちゃになっちゃった。


 ねえ、あなたは誰?


 どうして私の彼氏の隣にいるの?


 ねえ、あの子は誰?


 私に内緒で何していたの?


 そしたら苦笑いして、「ああ、ちょっと」とか答えにならない答えを言って。


 激しく問い詰めたら、なんかぐちゃぐちゃと言い訳してきたよね。


 でもそっか、そういうことね。


 私はもういらないってこと……。



 ……頭の中は、もうぐちゃぐちゃ。


 ケーキもそのままにして帰ってきちゃった。


 けどさ、よくよく考えると悪いのは誰?


 私なの? それとも彼? それともあいつ?


 わかんないわよ、もう何もかもがぐちゃぐちゃで。


 だったら……、



 ──全てを『ぐちゃぐちゃ』にしちゃってもいいよね。



 私は包丁を持って彼の部屋に。


 そしたらまたあの女が部屋の中に。


 ラッキーって思った。


 とりあえずは、あなたから。


 柔らかい腹をぐちゃぐちゃに。


 腕を折ってぐちゃぐちゃに。


 頭も切ってぐちゃぐちゃに。


 ぐちゃぐちゃ、ぐちゃぐちゃ。


 そうして気が済んだら、お次はあなた。


 腹を裂いてぐちゃぐちゃに。


 骨を折ってぐちゃぐちゃに。


 首を取ってぐちゃぐちゃに。


 ふぅ……。






 ──こんなこと書いても、どうせ誰も読んだりしないのに。













 




 ……泥沼恋愛小説ならウケると思ったんだけど、『作家は経験したことしか書けない』ってのはあながち間違いじゃなかったのね。


 でもそんなこと言ったら、殺人ミステリー作家なんて殺人鬼よね。


 まったく『ぐちゃぐちゃ』をテーマに小説書けって言われてもねえ……なーんも思いつきませんよ。




 そうして私は、原稿用紙をに丸めると、ぽいとゴミ箱に放って捨てた。

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ぐちゃぐちゃにした世界のお話。 絢郷水沙 @ayasato-mizusa

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