ご褒美ケーキ

望月ナナコ

第1話

ふぅ・・・やっと給料日か。月に一度、働いている全国民が待望の日。この日は丁度休みだったので諸々の支払いを済ませ、私は意気揚々とケーキ屋さんに向かった。


子供の頃は特別な日にしか食べられなかったケーキ。カラフルで可愛くて美味しくて・・・人をこんなに幸せにするなんて素敵な食べ物なんだろう・・・と子供の頃は思ってたっけ。大人になった今は毎日頑張っているご褒美に給料が入ったら毎月ケーキを食べる事に決めていた。これだけでも大人になった甲斐があるというものだ。


「いらっしゃいませ!」


今日もショーケースの中にはキラキラに輝いたケーキ達が色とりどり、私を誘惑している。


どれにしようかな・・・よし。


「このピスタチオのショートケーキと苺のモンブランをお願いします!」


春らしい緑とピンクのケーキを選び購入した後私は意気揚々とケーキ屋さんの扉を開け、外に飛び出した。と、まさにその瞬間だった。


ドンっ。


真横から来た人とぶつかってしまい、私は派手に尻餅をついた。


「大丈夫ですか!?すみません!!」


・・・痛っとは思ったけど自分が飛び出したのも悪いかと思って私はゆっくり立ち上がり相手に謝る事にした。


「こちらこそ、よく見なかったから、すみませんでした・・・ってあれ、部長!?」


「・・・ん?・・・ああ・・・君か。いや・・・その・・悪かったね。」


目の前にいたのは会社でもファンが多く、狙っている子が沢山いる部長だった。仕事がバリバリ出来て若いのに部長にまで上りつめたとてもカッコイイ・・・まあ、私の憧れの人でもある。


吹っ飛んだケーキの箱を恐る恐る開けるとさっきまで綺麗な形をしていたケーキがぐちゃぐちゃになっていた。


「弁償するよ。」


「いや、そんな、結構です!形が崩れただけで食べれば一緒、絶対美味しいので!どうかお気になささらず、では!」


「あ、ちょっと!」


部長の話を遮って私は帰り道を急いだ。


やばいやばいやばい・・・いつも寡黙でカッコイイあの部長と喋っちゃった!!!


私は部長と話せた事が嬉しくて、その日食べたケーキは形はぐちゃぐちゃでも今までで

一番美味しい味がした。


そしてそれからそんな事があったという事もすっかり忘れて時が経ち、三月十四日の昼休み。


「・・・君。」


呼ばれて振り返るとそこには憧れの部長がいた。課が違うから滅多に会えないのに・・・。


突然の事にびっくりしていると部長が何かを差し出してきた。


「これは・・・?」


「この前のお詫びだ。なんでもホワイトデー限定のケーキだそうだ。その・・・二つあるから・・・今から一緒に食べないか?」


バレンタイン何もあげてないのにも関わらず、わざわざあの日のお詫びに買ってきてくれたんだよね・・・。


「・・・え・・・あ・・・はい。ありがとうございます・・・。」


私はその気持ちが嬉しくて素直に受け取った。そしてザワザワしている周りをよそに、私は部長と会社に併設されているテラスに行って二人でホワイトチョコが装飾されたハート型の美味しいケーキを頬張った。


あの日ぐちゃぐちゃになったケーキが私に連れてきてくれたのは正真正銘の人生の春だったみたいだ。


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