パートのおばちゃんの名にかけて

鹿嶋 雲丹

第1話 パートのおばちゃんの名にかけて

 私は世間からピッキングと呼ばれる仕事をしている。

 勤務年数は10年以上という、ベテランの域に入ってしまう存在だ。

 仕事内容は至極単純である。

 お客様からの注文書を見ながら、注文通りの品を棚から取り、箱に詰めていくという作業だ。

 入社したばかりの頃、あれやこれやと色々ルールを教わったが“箱の中の商品を見栄え良くキレイに詰め込む”というのも、その内の一つだった。

 過去に写真つきでお客様からクレームが入ったことがある。

 その写真には、箱の中でぐしゃぐしゃ状態になった商品達が写っていた。

 ああ、これはないわ……

 その写真はインパクト大で、その後数年経っても偉大なる教訓として記憶に残っている。

 そんな中訪れた、ある忙しい日の夜。

 あまりに仕事が終わらないので、営業職の社員さんが手伝いに来た。

 自分の仕事で疲れているだろうに、気の毒だな……

 私はなにも言わずに黙々と箱詰め作業を行い、中身を整理整頓していた。

 営業職の若い男性はさっさと商品を回収し終え、箱に封をしている。

 私はその様子を横目で見、唖然とした。

 ちょっと待て……今の箱の中身、ぐちゃぐちゃだったぞ……いいのかそれで……社員だよな、営業職だけども!

 私の脳裏に、過去のクレーム写真が蘇る。

 これは後からクレームが来るかもしれないが、我々パートがしでかしたことではないから、知ったことではない。

 私は見て見ぬふりをして、作業を続けた。

 ところが、いつまで経っても店側からクレームが入ったという話が聞こえてこない。

 なぜだ……いいのか、あの状態でも……いやしかし、仮に店側からいいよと言われても、あそこまでぐちゃぐちゃな状態には、私にはできない……これはパートのおばちゃんとしてのプライドだ!

 腑に落ちない私は、多少時間をかけても自分の姿勢を貫く事を選び、今日も仕事を続けている。

 あのぐちゃぐちゃな商品達が写った写真を脳裏に浮かべながら。

 

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パートのおばちゃんの名にかけて 鹿嶋 雲丹 @uni888

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