料理は技術が大事です!
みちのあかり
看病にきたよ!
38度6分。新型コロナではなかったが、中々熱が下がらない。ボーっとしている。頭が上手く働いていない。
[熱が下がりません。明日の初デートはやっぱり無理そうです。ごめんなさい]
文字を打つのも面倒くさい。最低限の文字で
一週間前から付き合い始めた彼女。初めて出来た彼女。あ~怒っているかな?
そんなことを考えていたら、玄関のベルがなった。
◇
「看病しに来たよ。ご飯作るね」
愛菜が来た。風邪うつるよ。
「大丈夫。体が丈夫な事には自信あるんだ」
突っ込む体力が欲しい。ゲホゲホとむせてしまった。
「台所借りるね。マサトのためにおいしいハンバーグを作るよ!」
なぜハンバーグ? おかゆとか雑炊とか。なんだったらインスタントのお茶漬けでもいいのに。ほら、ご飯パックにお茶漬けのもと振りかければあとはお湯沸かすだけですむじゃん。
「材料は買って来たよ! 待っててね」
何人分作る気ですか? その両手で抱えるほどの材料!
「包丁借りるね。うわっ、凄い! お寿司屋さんが使う包丁みたい」
僕は料理が趣味なんだよ。自分で包丁も研ぐしね。
「え~と、まずお肉を出して」
なんでお肉が塊⁉ ハンバーグだよね。ひき肉じゃないの?
「大丈夫。牛肉100%だから。失敗してもお腹壊さないわ」
失敗前提なの⁈ なんでハンバーグなんか作ろうとするの⁉
「これを包丁でミンチにしましょう」
危ない!!! それ指落とす未来しか見えない!
僕は「待って!」と叫んで上体を起こした。
「大丈夫? どうしたの?」
愛菜が近づいてきた。包丁を持ったまま。包丁、僕に向けてこないで!
「包丁貰おうか。あのさ、ひき肉にするならちょうどいい道具があるから。包丁は危ない」
僕はふらふらと立ち上がり、ミンサーを棚から出した。
「これは何?」
「ここにお肉を入れてハンドルを回すとひき肉が出来るから。それから、玉ねぎとかはこっちのフードプロセッサーを使って。包丁は禁止。わかった?」
少しむくれられたが、怪我をされるよりまし。いや、下手をすると猟奇事件と間違われるような惨状に……。あれ? 身震いしたのは熱のせいかな?
僕は安心して、ベッドに倒れ込んだ。
「ふんふんふ~ん」
愛菜が鼻歌を歌いながらハンバーグを整形している。ここまでくれば危険なことはないだろう。楽しそうな愛菜をみると、クチャグチャな現代芸術の作品が!
「う~ん。上手くまとまらないなぁ」
それ以前です。ああ、床にハンバーグの種が散らばっている。
「まあ、料理は愛情だから」
料理は技術です! 科学です! 経験値です!
「愛情ならだれにも負けないわ」
それは嬉しいけど……。料理は愛情じゃないよ。
「よし、後は焼くだけね」
・・・・・・やばい!
「ちょっと待って! それ、レンジでやろう。ガス台は壊れているんだ! そう使えないんだよ。使うと爆発するから!」
壊れてないけど、たぶん愛菜が使ったら同じくらい危険なことが起こる! そんな予感しかしない。
「レンジで出来るの? どうやって?」
僕はレンジ用の焼き皿を出して、ぐちゃぐちゃの引き肉の塊をのせて時間をセットしてスタートボタンを押した。
「寝てないで大丈夫?」
安心して休みたいよ。
「片付けは任せて。ゆっくり休んでね」
僕はなるべく台所を見ないように、布団をかぶって休んだ。
「ピピピピ ピピピピ」
レンジが出来たとコールを鳴らした。
「もうちょっと待っていてね。盛りつけるから」
愛菜の相手をして気がまぎれたのか、緊張感からなのか、大分元気が戻って来た。食欲も戻ってきたようだ。でも、あの調理をみてしまったからなあ。
「できたぁ。いいわよ、マサト。一緒に食べましょう」
台所は片付けた? まだぐちゃぐちゃだけど。片付けるの苦手な子なのね。
「ジャーン。出来ました。どう、この出来!」
ハンバーグだけ? ご飯は? パンとか、パスタとか。
僕は黙って、ロールパンとインスタントのスープを出してきた。お湯は卓上ケトルで沸かそう。
「あ、すごいよマサト。ファミレスみたいだね」
こんなファミレスありません。
ポットのお湯を注ぎスープが出来た。これでパンとスープだけでも食事としてせいりつするよね。
「さあ、愛情をたっぷり込めたハンバーグを食べて。初めて作ったの」
見たらわかるよ。料理初めてな事。愛菜はケチャップで[すき]と書いた。
深呼吸を一つして、ハンバーグらしきものを口に入れた。
「おいしい」
素朴な味だが食べることはできた。
「やっぱり料理は愛情ね!」
愛菜、僕が元気になったら一緒に料理をしようか。うん。料理は愛情。じゃないよ。やっぱり技術は必要だよ! まずは道具の取り扱いから。絶対怪我するから! 心配だよ! それと片付けも出来るようになろうね。
ボクのやる気に火がついた。
◇ ◇ ◇
1週間後、回復のお祝いと看病のお礼をするため、愛菜に手料理を振舞った。次々と出す料理に愛菜は
「本当にマサトが作ったの?」
と疑いの目を向けて来た。しょうがないから目の前でリンゴをむき、フライパンでバターとシナモンで味付けしながら焼きリンゴを作った。アイスクリームを乗せてきれいに飾り付けたら完成。恭しく愛菜にお皿を出した。
「ずるい! 何でそんなに上手なの? 私の方が愛に溢れているはずなのに」
「だって、料理は愛じゃなくて技術だよ」
「身も蓋もないこと言わないで!」
愛菜は「あんな料理を自慢げに出した過去を無くして!」と涙目になってポカポカと僕の胸をたたいた。
料理は技術が大事です! みちのあかり @kuroneko-kanmidou
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます