ぐちゃぐちゃの……。
久路市恵
ぐちゃぐちゃのおもちゃ箱みたいな……。
今日は私たちの20回目の結婚記念日、
ほんとに、よくここまできたものだと憂いにも似たような感覚で空を見上げる。
青い空にふと若い頃の自分を重ねた。
あの頃描いていた夢に近づく為に必死だったよね。
親に反対されても右も左もわからない東京にたった一人でアパートを見つけ上京して来た。
若さってのは無謀なものなの、
夢を叶えるために朝から晩までレッスンの日々、ジャズダンス、日本舞踊、殺陣、演技。
レッスンが終われば、すぐに池袋東口のバイト先『いろはにほへと』へと走っていく、
「夢のために頑張るんだもん」
時代劇俳優を夢見ていた私は時代劇俳優養成所と
しかし、そこはなんと大衆演劇を運営している事務所でいつの間にか地方公演へと称して温泉地へと巡業に行くはめになる。
それでも、
私は大衆演劇の役者として頑張っていこうと決めた。
だけど、自分の思う世界ではない事を思い知らされる。
男性が花形として活躍する世界、女はいつでも裏方だった。
そして自分の限界を知って落ち込んでいた時、夫と出会って、そして結婚。
自ら打ち砕いてしまった夢だけど役者の道を諦めてしまった後悔は、今でもこの心から消えることはない。
あれから20年、あっという間だったな。
そんなこんなで共に生きて来た夫の直人は優しい人だけど、この20年間一度も私に料理を作ってくれたことなどなかった。
「初めて作ってみたんだけど」
と、私はテーブルに出されたお皿の炒飯を見て思わず口を塞いだ。
米粒は潰れているもんの卵はちゃんと混ざってなくて失敗した目玉焼きのように悲惨な状態だ。
どう見てもぐちゃぐちゃの
初めての手料理『ぐちゃぐちゃ炒飯』手を合わせて「いただきます」と完食した。
ぐちゃぐちゃの……。 久路市恵 @hisa051
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