今日も聖剣は俺を行使するッ!

MURASAKI

勇者は戦闘以外ナニもしない

 とある町の宿屋前。そこで俺はテンプレな騒動に出くわした。

 宿屋の可憐な看板娘を執拗にナンパするゴリラみたいな冒険者を止めようと、これまた見目麗しい女性冒険者が間に入り、どちらもピンチという場面だ。


『見逃すなよ、相棒。これは絶対いいポジが獲得できるぜ』


 俺の持つ聖剣デュランドルは、喋る。とにかく女の子が大好きで守備範囲があまりにも広すぎて困るほどだ。しかし下心はどうあれ、ピンチの女性を見過ごすことはできない。人として当たり前だろ?


「嫌がっているじゃないか」


 彼女らを黙らせようと振り上げられた手を抑えると、冒険者の男に聖剣を突きつける。男の標的はその時点で俺に変わる。剣を構えたままヒールをかけ、彼女らに逃げろと手で軽く合図ジェスチャーをすると、男を更に挑発する。


「俺が相手になってやるから、彼女らを見逃せ」

『ヒュ~! カッコイイ! オレ様が女なら惚れるね。今夜はお持ち帰り確定だぜ』


 言っておくが、デュランドルの言葉は俺にしか聞こえない。こんな下品なことを周りに聞かれたら俺は破滅だ。しかしこの聖剣を手放せないのは、この聖剣が良くも悪くもだからだ。


 冒険者が見た目だけで強くなかった――というより、俺が強すぎるのだが――おかげで、勝負は一瞬だった。倒れた冒険者を縛り上げ、警備に突きだすと報奨金を得る。どうやら冒険者ではなくお尋ね者だったらしい。


 念のため宿屋へ戻り奴が牢に入った事を伝えると、胸を撫で下ろした看板娘が俺の腕に抱き付くようにすり寄り、どうぞ今日は宿屋に泊まってくださいと懇願してきた。おいおい、気付かなかったけどかなり巨乳だ、この娘。鍛えていないむっちりとした柔らかい身体から、非常にいい香りがする。

 女冒険者も俺の反対の腕を取り頬を赤らめながら一緒に飲もうと誘ってきた。こっちはこっちで、先程はマントに隠れて良く見えなかったが、良く引き締まったスレンダーなボディに、色々はみ出しそうなくらい小さなビキニアーマーを身に着け、男が見れば非常に恰好をしている。


 ちょっとぐらい鼻の下が伸びたとしても仕方ないくらいには、二人ともイイオンナだ。


『やったな、相棒! これはもう二人とも確定じゃねーか! オレ様がぐちゃぐちゃにしてやんよ!』

「何言ってるんだよ。俺らは魔王退治に向かってる旅の途中だろ? 女の子にかまけてる暇は……」

『何言ってんだ、相棒! オマエだってちょっといいなと思ったろ? オレ様には筒抜けだぜ。絶対いい返事しろよな?』

「そんな……むちゃくちゃだ」


 最後にぼそりと呟いた俺の言葉が聞こえたのか、二人はあからさまに顔を赤らめて俺を見る。


「そんな、こんなところでぐちゃぐちゃなんて……キャッ」


 おいおい、勘違いだ。何を想像してるんだこのむっちりボディは。俺はむちゃくちゃって言った……


「わたしをパーティに加えてくれないか? 勿論……ぐちゃぐちゃにされたって……キミに純潔を捧げても構わない。キミの強さに、惚れたんだ」


 まてまて、こっちもビッグな思い違いもいいところだぞ? なんで一緒にパーティ組む話になってるんだよ。ん? 最後純潔って言った? まさか……


『処女だ! いいぞ、このまま部屋へ連れ込め!』

「待て待て。俺は彼女キミたちの事なんて何も知らないのにパーティに入れるとか、やめてくれよ。とりあえず俺は部屋で少し荷物の整理をしたい。用意してくれた部屋に泊めてもらえるかな?」

「わたしもこの宿屋に部屋を取る。だから、あとで一緒に食事していただきたい。先ほどは遅れを取ったが、私が本来は使える奴だってことをプレゼンさせてくれ」

「まあ、食事くらいは。じゃあまた後で」

『お前バカか? 覚悟をキメた直後の方がすぐキマるのに! 時間を置いたら気持ちが冷めるだろうが! オレ様は、女のはじめてを、奪い、たいッ!』

「下品が過ぎるッ!」


 あ、頭が痛い。

 聞くに堪えない下品を通り越した卑猥な言葉を吐き続けるドエロ聖剣を携え、俺は案内された部屋に落ち着くと、荷物の整理もそこそこに疲れて眠ってしまった。

 聖剣と会話をすると精神力が削られる。しかも、この下品さ……疲れるにも程がある。他の聖剣は聞くところによると凄く上品なのだそうだ。魂の契約さえなければ、早々にチェンジしたい。



 ギシ……


 マットレスが沈む感覚で俺は目を覚ますと、そこにはヒトガタに変化した聖剣デュランドルが全裸で座っていた。

 眠い目をこすりよく見ると、奴の股の間に女冒険者がひざまずいている。頬を赤らめながらぎこちなくご奉仕……って!?


「待て待て! お前ら、俺が寝てる間に何しようとしてんだヨッ!」

「何って、ナニだろ。見て分かんねーか?」

「いやいや、デュランドル! 何で俺の許可も得ず顕現してるんだ? まさか眠くなったのって……このために俺の生気吸い取ったな?」

「ん~、まあ。この女が強い男が好きとか言うから、オレ様が相手してやらんとな?」

「だからって、こんな……」


 思わず目を覆う俺の背後から抱き付いて来た影があった。宿屋の看板娘だ。


「私もいますから、心配しなくてもいいですよ~!」


 背中にこれ見よがしに押し付けてくる胸の質量が、俺の逃げ場がない事を示唆していた。いやだ、逃げたい。


「勘弁してくれよ、俺はこういうの苦手で……」

「あらぁ、相棒の聖剣さんはノリがいいのに、ご主人様は消極的なんですね。そういうの、私んです」


 どうやら宿屋の彼女は攻めるのがお好きらしい。知ったこっちゃない。

 逃げようとする俺の服を無理やり剥ぎ取り、半裸の俺を見た彼女は舌なめずりをする。


「あらあ、勇者様は女性だったんですね。私、そっちの方が得意なの」

「やめてくれ、女の子に手荒な真似なんてしたくない! って、待て待て! そっちってどっちだよ?」

「あら、ウブなんですね。大丈夫、優しくしますから」

「そう言う問題じゃ、なーい!」


 そうこうしているうちに、デュランドルの愛撫で緊張のほぐれてきた女冒険者の甘い声が響き渡る部屋で、俺を追いかける宿屋の看板娘を躱して何とかドアに手をかけた。


「ウフフ、その半裸の状態で外に出たらどうなるかしら?」


 サラシを撒いているとはいえ、女である象徴を人に見られてしまう。一瞬躊躇した俺を押し倒すと、女は慣れた手つきで俺の股間に手を伸ばしてまさぐりはじめる。


「あら? あなた両方お持ちなの?」

「それは、デュランダルとの契約で……アイツが俺を行使して顕現している間“生える”だけで、魔王を倒せば元に戻るんだッ! 使わないからな、俺はを生理現象以外、絶対に使わないからな! アイツが顕現解除したり魔王を倒せば完全な女に戻れるんだから、それまで絶対!」


 そう、俺は女だ。聖剣ヤツを手に入れた際、ドエロ聖剣に襲われないよう顕現時は下半身が男になるように契約した。おかげでデュランダルは“生えた”俺に興味を示さなかった。


「あら、使ったら忘れられなくなるわよ。ふふ、かわいい。もうガチガチ♡」

「やめて、触らないで!」


 思わず泣き出した俺に馬乗りになった彼女は、ぷっくりした柔らかそうな唇を舌でちろりと舐める。いやらしく潤んだ瞳がきらりと光る。


「分かったわ、本番はナシね。でも、しっかりぐちゃぐちゃにあ・げ・る♡」


 俺は戦闘以外ナニもしないか・ら……うぅあッ……なッ!? ヤメテ……ッうぁ!


 宿屋の夜はまだ始まったばかり。

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