ぐちゃぐちゃの肉と、生まれなかった命の素を喰らう話

千八軒@瞑想中(´-ω-`)

血と肉になれ

 苛立っていた。

 あらゆる事に苛立っていた。


 言う事を聞かない彼らには、ほとほと呆れていたし、馬鹿な相方の行いにも開いた口がふさがらなかった。


 なぜ、あれほど詳しく言い聞かせたにも関わらず間違えるのか。


 お前が言い出した事だろう。なぜこうなる? わざとなのか? 私の怒りをわざわざ買ってどうするつもりだ。ふざけているとしか思えない。


 ダンッ


 いや。やはり、ふざけている。


 私は、許さない事にした。

 いいよ。そういうつもりならば、こっちにだって考えがある。


 ダンッ


 お前が隠してる、あれ。後生大事にしているあれだ。

 知られていないとでも思っているのか?


 ダンッ ダンッ ダンッ ダンッ ダンッダンッダンッ!!


 

 居場所は突き止めた。生意気にも、部屋に隠れていた。


 ダンッダンッダンッ!!


 ころもをはぎ取り、覆い隠すものは何もない状態にしてやった。


 ダンッダンッダンッ!!


 生意気にも、ふるふると震えていたが、知ったことか。私に秘密にしていたのが悪い。隠し事はしない約束だった。その代償は、お前が支払え。


 ダンダンダンッ!! ダンダンダンッ!!


 もはや真っ赤な肉塊となったお前。生前はさぞ美しい雌だったのだろうが。だが、首を切られ、皮膚をはがされ、肉にされ、今、私の前で晒され、並べられている。


 ざまぁないな。あれは私のだ。お前が独占していいものじゃない。


 ダンダンダンッ!! ダンダンダンッ!!


 惜しむらくは、お前の顔が見れなかったことだ。

 どこのどういったヤツなのか。私の相方が連れてきたお前だ。身元の怪しいものではないだろうが。


 外国から来たのか? それともこの国か。真っ赤な身をさらし、細切れになっていくお前はもう答えられないだろうが。


 ギュィイイイイイイイイン!


 あっという間に細切れになったお前。さぁ最後の仕上げだよ。お前のものではないけれど、お前のように哀れな命になれのハテだ。


 私は、それらを機械に入れる。すべてのかたちをなくし、尊厳も、存在も、過去も形もすべてを粉々にしてくれる素敵な機械だ。


 それらは砕かれ、交じり合わされ、もう二度と元のかたちに戻らない。


「はぁ……、いい気味。ふざけんなっての」


 私は、憎々し気に、刃を放り出した。

 酷く疲れた。あれだけの大きさの肉を解体するのは始めてだったが、うまくできたようだ。


「あんたが、悪いんだから……」


 私は、相方が返ってくるまで少し休むことにした。

 ぐちゃぐちゃにしたこいつらを、固めて処理する必要があるからだ。



 ◆◆◆


「おまえ……、これ……」


「素敵でしょ? 買ってきてって言っといたのに、忘れたあなたが悪い」


 私は食卓にハンバーグを並べながら言う。子供たちは大喜びだ。ほかほかで、まんまるで大きなハンバーグ。なんと100%だ。


 肉の提供元は、夫。夫が自室の小型冷蔵庫に隠していた、ゴルフのコンペだかで貰って来た、高い高い、高級と銘打ったブランド牛のブロック肉。おおかた一人で食べる気だったんでしょう。彼は食いしん坊だから。太るからやめなさいと言っているのに。


「なんで……、なんで使っちゃったんだよぉおお」


 涙ながらに夫が呻く。


「なんでって……、あなたがひき肉買ってきてって言ったのに、間違えて豚バラ肉買ってきたからでしょ? 子供たちも私もハンバーグ楽しみにしてたの。だったら、あなたの肉を使うわよ。豚バラじゃ牛100%ハンバーグは作れないもの」


 私は筋肉痛になった両手を振りながら、にやりと笑って言ってやった。


「味わって食べてね。自分でミンチ作るの大変だったんだから」


 ぐぅと唸る夫は、がっくりと肩を落とし食卓についた。まぁ、すぐに機嫌はなおる。なにせ、とってもおいしいハンバーグだから。肉肉しくて、ジューシーで。

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