学校一の美少女が落としたメモに書いてたURLを開いたら、彼女の部屋が映った。

杜侍音

学校一の美少女が落としたメモに書いてたURLを開いたら、彼女の部屋が映った。


 俺には好きな人がいる──そう、隣の席に座るクラスメイト、雑賀蘭さいが らんさんである。


 才色兼備とは正にこのことと言わんばかりに、勉強も運動もできてしまう。

 今年で設立五十周年の高校史上、一番の美少女だと言われている雑賀さん。

 昔から働いている用務員が、彼女があまりにも美人過ぎて腰を抜かして救急車で運ばれたという伝説を現代に残すほどのことだ。


 可愛くて美しい雑賀さん──なんて、さん付けで呼ぶのもおこがましい。

 でも、彼女のことを好きでいるくらいはいいはず。どうせ俺のことなんて見向きもしないのだから。

 クールビューティーな雑賀さんだが、彼女は人との関わりを持とうともしない。他人を見下している、などと女子からは陰口を叩かれている。

 確かに自信家なんだろうなって感じはするけども……ま、それ以上に魅力的だから、男子は構わず告白をしていくんだけど。


 ──当然、全員玉砕。

 それどころか、何故か告白した男子はみんな雑賀さんを避けるようになり、彼女の名前が聴こえただけでも発狂しながら離れていく。

 彼女のことだ。よっぽどトラウマになるような振り方をしてるのだろう。

 まぁ、だからこそ凡人の俺は告白などせず、ただただ隣の席になった幸せを噛み締めながら、彼女の横顔に見惚れるだけに留まるのさ……。


「おーい、應助おうすけー。部活行こうぜ」

「お、おぉ!」


 おっと、いけねぇ。今日は練習日だったか。

 とっくに部活の時間だというのに、メデューサに石にされたみたく動けなくなっていた。別に俺のことを視界にすら入れてないってのに。

 慶應義塾大学に入れるような頭脳を身につけて、人を助けられるような男になりなさいと両親に名付けられたのが、俺の名前。

 今のところ前者は叶いそうにない成績である。


 隣のクラスの友達が呼びに来たので行こうとしたら、ちょうど雑賀さんも立ち上がり、準備に手間取る俺を置いて一足早く立ち去った。

 あぁ、後ろ姿も美しい……いい匂いがした……ん?

 雑賀さんのバッグから一枚のメモ用紙がヒラリと落ちてきた。

 それを拾い、慌てて届けようとするがもういない。

 おいおい、これを落とした雑賀さんを助けるチャンスだってのに。名前の最後の由来も果たせそうにないのかよ。

 ところで、何のメモだろうか。申し訳なく何が書いてあるのか見ると……そこにはURLが書いてあった。



「──動画サイトの、だよな。……観てみるか」


 メモ用紙を誰にも見られないようサッと自分の鞄に仕舞い、部活が終わって家に帰った後、自室でスマホにURLを打ち込んでみた。

 そして、出たのがNewTubeニューチューブという動画サイトにあげられた限定公開の動画。

 このURLは、その動画を観るためのものだ。

 何分あるか分からないし、雑賀さんが限定で見てる動画だしと思って、晩御飯も風呂も歯磨きも済ませておいた。

 ふぅ、めちゃくちゃドキドキしてきた……。


「──よし、観るぞ」


 俺は覚悟を決めて、動画を再生した。

 タイトルは『無名』と書かれていた。



『──ぶんぶん、ハローにゅー、こんちは、あ、えー、どうもよろしくお願いしむ、します』


 再生された動画に現れたのは雑賀蘭さんだった……!

 思わず体を反らしてしまったが、アップに映る彼女にすぐさま引き戻された。美し過ぎる‼︎

 もしかして雑賀さんってNewTuberニューチューバーだったのか! 観ていいのか、このまま観ちゃっていいのだろうか⁉︎

 ただ一つ思った……挨拶がまとまっていないなぁ、と。


『さっそくだけど、一発ギャグをします』


 え⁉︎ 一発ギャグ⁉︎ 雑賀さんが⁉︎ 何で⁉︎

 雑賀さんがギャグのためにカメラから離れて──いや、ちょっと待て、部屋汚っ⁉︎

 物という物が雑然と置かれている。生ゴミと私服が一緒になっちゃってるけど大丈夫⁉︎ 部屋がぐちゃぐちゃ過ぎて今にも倒れそうな山がいくつもあるけども⁉︎


『やっすみの日はー、ぐっちゃ寝、ぐっちゃ寝』


 一発ギャグもぐちゃぐちゃだった……。

 あと寝ながら縮まったり伸びたりを繰り返すギャグだったけど、下半分はカメラに映っていない。その辺の段取りもぐちゃぐちゃだ……。


『続いてファッションショー』


 ファッションショー⁉︎

 制服姿しか見たことない雑賀さんの私服──も、ぐちゃぐちゃだ⁉︎

 色はペイントボールをぶつけられたのかと思うような派手なネオンがふんだんに使われているし、服はシワくちゃで、まぁこんな部屋に置いてたら当然そうなるか。

 とにかくファッションセンスが絶望的になかった。


『踊ってみた。をします』


 あまり、【踊ってみた。】をするとは言わないんだよな。踊るが動詞なんだから。日本語もぐちゃぐちゃ。頭良いよね??


『ふん、ふーん、ふーん‼︎ ふん、ふん♪ ふふん〒々〆々:¥』


 言わずもがなダンスはぐちゃぐちゃ、音程もぐちゃぐちゃであった。

 雑賀さんならちゃんと踊れると思ってたのに……まぁ運動能力は高いからなのか、普通の人より体はぐちゃぐちゃになるほど柔軟性はある。


『続いてファッションショー』


 あれ⁉︎ また同じ映像流れてる⁉︎ 編集もぐちゃぐちゃだ⁉︎



 ……と、いう感じで計1時間38分。

 ツッコミ所しかない謎動画であった。


 雑賀さんって、思ったよりも残念な人だったな……。

 ……でも、なぜだろう。前よりも彼女のことが好きになった気がする。

 きっと、ぐちゃぐちゃだったけど雑賀さんの色んな面が見えたからだと思う。

 色々な要素がぐちゃぐちゃに混ざり合って、雑賀蘭さんという一人の人間を作り上げてるのだから。



「──だから、そんな雑賀さんが好きです! 付き合ってください‼︎」


 俺は次の日、誰もいなくなった放課後の教室で雑賀さんに告白した。

 この燃え上がった恋心は、凡人の俺を行動させるまでに至ったのだ!


「……動画、観たのね」

「そ、それはごめん! つい気になって……」

「いいの。落としたのはわざとだから」

「……え?」

「私のことを外側だけ見て、知ったつもりになって告白してくる人が嫌だったの。だから、こんな私でも良いのなら告白してきて。って、私のこと好きそうな人にはこのURLをばら撒いてたのよ」


 な、なるほど。

 さすが自信家の雑賀さん。自分がモテるということは百も承知だったか。もちろん、それは否定しようもない事実だし。

 告白しに行った男たちが雑賀さんを避けていたのも、きっとこの動画を観て愕然としたからだったのか。

 って、俺からの好意はバレてたのか‼︎


「言ってしまえば、これはテストなの。どんな私でも好きでいてくれるのかどうかというね。つまり動画の内容は全て嘘よ」


 やっぱりそうか。

 さすがに雑賀さんの外側しか見ていなくても、あの動画にはいくつか不審な点はあった。

 全部作り物だったということに、全て納得した。


「この動画を観てもなお、告白してきたのはあなただけよ。素直に嬉しかった」

「雑賀さん……! そ、それって、つまり……!」

「でも、ごめんなさい」

「……え?」

「シンプルにタイプじゃない。あなたに動画を見せるまでもなかったわ。手間を取らせてごめんなさい。無理です」


 そう言って、雑賀さんは立ち去った。


 ……その後のことは記憶にない。

 予報外れの大雨に打たれながら、気付いた時は家に帰っていた。

 制服や荷物はぐちゃぐちゃになるまで濡れて、俺の心もぐちゃぐちゃになっていた。

 そのままベッドに蹲り、親から買い与えられた慶應義塾大学の赤本に頭を打ち付けて、記憶がなくならないか一晩中試していた。

 翌朝、洗面所の鏡を見ると、顔がぐちゃぐちゃになるまで泣いた跡がそこにあった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

学校一の美少女が落としたメモに書いてたURLを開いたら、彼女の部屋が映った。 杜侍音 @nekousagi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説