ブラックアウト2

 ──ガタンッ!

 自身の膝が机を蹴り上げることで少年の意識は取り戻された。

 心臓が痛いくらいに強く打つのを感じる。

 本能に導かれるようにして辺りを見渡せば、そこには突然の物音に集まる視線のみで、世界が回る感覚も身体が宙に浮く感覚もなかった。

 そこでようやくアレが夢だと認識することができた。


「寝てんなよ、授業中だぞ」

 もっとも、代わりにもたらされたのは教師の言葉とくすくすと教室に木霊する笑いだったのだが。まあいい、あの悪夢を見続けるよりはマシだろうと折り合いをつけて机に突っ伏す。

 まだ心臓は落ち着かない。

 妙に頭は冴えていて、夢は独りでに頭の中で再生される。


 たしか、あの影の正体を見ようとして、身体を乗り出して──。

 なぜそんなことをしたのかはわからない。

 でも、あの世界が回る瞬間は身体が覚えているように感じる。

 それに……何かを、肝心な何かを忘れている気がする。

 しかし、それが何かを思い出すことは出来ない。

 すぐ左隣、窓の外を見れば思い出すかもしれないのに、どうしてもそちらを見れない。

 なぜ見れないのか、どうして恐れているのか、それさえわからない。

 ただ確実なのは、アレが現実じゃないってことだ。じゃなきゃ今頃大ごとになっているはずだから。それがないなら、アレは現実じゃない。

 そう、現実じゃないはずなんだ。


 少年は、リアリティのある夢を見たことがないわけではない。今までだって何回も悪夢を見たことはあるし、その内容をある程度細かく再生することも可能だった。

 だが、今回のものはそれとは何かが違うとも感じていた。

 何が違うのかはわからない、しかし何かは確実に違うのだ。

 そして、その何かを知ってしまうことが酷く恐ろしく感じたのだ。

 そう、それを知ってしまえば、それが現実になってしまうような気がして。


「(……いや、やめよう。考えるな、アレは夢だ)」

 結果、答えの出せないものに少年は蓋をする。

 人々が自らの平穏を保つために多くを忘れるように。


 それが現実であったことを、知らずに。

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