其処にいるよ お題 ぬいぐるみ

工務店さん

其処にいるよ

第二回お題 ぬいぐるみ


いつからだろう、アイツが私の部屋の出窓に座っていたのは。

気付いた時には、既にあった。

大きさは、高さ1メートル、横幅60cm、奥行き50cmくらいかな、正確には判らないけどそれくらい。

そいつは、白いふわふわした毛皮に覆われ、

垂れ耳と巻角のあるデフォルメされた、二足歩行できそうな羊のぬいぐるみだ。

顔を見ると、目を閉じている。

糸で縫い付けられた様な細い目を閉じている。

愛らしいかと言われると、少し違う気がする。

1つ言えることは、無駄に存在感があるって事。

ぬいぐるみなのだから、質量なんて無いに等しいが、アレはズシリと重そうな雰囲気を纏っている。


ただ、私の記憶には無いのだ。

貰った覚えも、自分で買った覚えも無い。

家族に聞いても、前から部屋にあったと言う始末。

誰からかを聞いても、皆曖昧なのだ。


コイツはなんだろうか。


常に見られている

そんな気配を感じる様になった。


たまに眠気に襲われて、記憶が曖昧に成ることが増えた。

遠くから何か言っている、まるで私を誘う呪文の様だ。

この声が聞こえるのは、私だけらしい。

家族に聞いても、単なるぬいぐるみで、そもそもぬいぐるみが喋る訳無いだろと言われる始末。

遠回しに『頭大丈夫か?』と言われているんだろうな。


最近は朝起きる時と、就寝前に違和感を感じるようになる。

私の体から、意識だけを抜き取る感じ。

そんな日は体が怠く、日常生活に支障が出る。


ある朝の事。

寝返りが打てない、えええー。

腕を振るえないし、身体の感覚が無いよ。

どうしたのこれ

目線の先に姿見が見える、視線は多少動くのでよく見ると、私はぬいぐるみになっていた。

でもベットに何かいるよ、鼾は聞こえないけど、確実に何かいるの、私じゃない何かが。

こちらが慌てふためいていると、ベットの上の何かが寝返りを打って、こちらに姿が見えた。

アレって私じゃないのさ

しかもね、怖いんだよ。

突然ね、目を開くんだ、本来瞳のある場所が真っ白でさ、余りの恐怖に意識飛んでしまったわ。


何時間経過したかは判らない、アレが夢だったのかも知れないしね。

私は私、しっかりと肉体を得て、人として生きていることに涙したよ。

その涙もね、机の上に置かれた、書き置きを見たら凍るかと思ったわ。

この身体、もう誰にも触れさせたく無いから。


『いつでも、狙われると思い知るがいい』






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