ぬいぐるみの怖い話
二枚貝
第1話
うるせーよ、笑いごとじゃねえっての。てか、人の不幸を笑いやがって、お前性格歪み過ぎじゃね?
まあさ、確かにさ、あいつから誕生日にでけーぬいぐるみが欲しいって言われて、断れないなとは思ったわけよ。一応、彼氏だし? 無理って言ったら絶対喧嘩になるよな、だって誕プレだし。
でも駄目だった。ネットで探してポチッとやるだけでも無理だった。馬鹿みたいだよな、画像のぬいぐるみを見ただけでも気味が悪くって、ぞわぞわしちまう。
あー……、そういや、お前には話してなかったか。俺の実家、神社やっててさ。田舎の住宅街のなかにあるちっせーとこで、正月と七五三の時以外は社務所も閉じてるようなとこでさ。
まあ聞けよ。神社の正月ってのはかきいれ時でさ、俺も手伝いに駆り出されてたわけ、中3くらいからかな。何の仕事かっていうと、社務所の受付でさ。まあ、祈祷の受付か、お守りの授与やってる小屋みたいなとこの人だな。
でさ、まあまあ参拝者が来るわけだけど、結構な割合でお焚き上げの依頼があるわけ。古い御札とか去年のお守りを持ち込むのが7割で、他の3割は人形とかぬいぐるみ。
人形はまだいいんだけどよ、ぬいぐるみは、でかい透明なゴミ袋にたくさんぶち込まれて、これよろしく、って持ってこられるわけ。それをぜーんぶ祈祷したら、燃やすのが俺の役目でさ。え? 当たり前だろ、普通に火ィつけんだよ。ゴミに出すと、業者のゴミ扱いになって金がかかるんだよ、神社だからな。
すげーボロボロのぬいぐるみもあれば、値札がついたままのきれーなやつもあってさ。あれ、なかなか燃えないのな。しかも嫌な匂いがすんの。台所からサラダ油貰ってきてかけたり、いろいろ試してさ、結局ぬいぐるみの腹を割いて中の詰め物に火をつけるのが一番だって分かった。
で、さ。楽しかったんだよな、それが。ばあちゃんのでかい裁ちバサミ、ジョキジョキ切れるやつでぬいぐるみを切り刻んで、腹の綿を引きずり出して、油かけて、燃やすのが。うまく切れた、切れなかった、すぐに火がついた、詰め物がこぼれた、そうやって工夫して、試行錯誤してさ。燃え方も切れ味も全然違うから、どんどん試したくなってさ。
それで。お焚き上げのぬいぐるみは全部燃やしちまって、それでも俺、まだ燃やし足りなくてさ。姉貴の部屋にこっそり入って、ベッドに山積みにされてるぬいぐるみを「こいつを燃やしたらどんな感じだろうな」って考えてるところを見つかって、まあ家族会議になって、てさ。
だから、まあ、俺、怖いんだよ。ぬいぐるみが怖い。また見たら思い出しちまうし、また見たら、切り裂いて燃やしてみたくなる。そしたら今度は我慢しきれないかもって、最近さ、思うんだよな。
ぬいぐるみの怖い話 二枚貝 @ShijimiH
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます