クーちゃん

クーちゃん

 今夜こんやはぬいぐるみたちにとって、久々ひさびさのパーティーでした。

 バタンッ!

 いきおいよくぐちのドアをけてはいってたのは、よごひとつない、フワフワしたつ、クマのぬいぐるみでした。

 むねり、自信じしんち、主役しゅやく自分じぶんだとわんばかりの登場とうじょうでした。

「べーべさんだ。」

「べーべさんよ。」

 早速さっそくぬいぐるみたちうわさをしはじめました。登場とうじょうしてたのは有名ゆうめいなぬいぐるみでした。ぬしはかなりの大金持おおがねもちで、いつも手入ていれがとどいた格好かっこうをしていて、パーティーのときはいつも主役しゅやくのような存在そんざいです。ぬいぐるみたちあこがれの存在そんざいでした。

「やあ、こんばんは。みんな元気げんきだった?」

 べーべさんは、優雅ゆうがみな挨拶あいさつをしました。

「べーべさん、おひさしぶりです。今夜こんやもビッシリまってるウホ。」

 そうってたのはゴリラのぬいぐるみでした。パーティーではいつもべーべさんのそばにいるぬいぐるみの一体いったいでした。二体にたい笑顔えがお握手あくしゅわしました。

「べーべさんの身体からだは、いつもフカフカして気持きもちいいウホ。」

「ハハハ。ぼくのご主人様しゅじんさまは、中身なかみにもこだわるかたで、上質じょうしつ綿わためるよう、指示しじしてくれているからね。」

 べーべさんは笑顔えがおこたえます。

「べーべさん。おひさしぶりです。中身なかみだけじゃなく、もフワッフワッでツヤツヤひかってるでギャオス。」

 そうってたのは、やはりパーティーではいつもべーべさんのそばにいるぬいぐるみの一体いったいで、恐竜きょうりゅうのぬいぐるみでした。

「ありがとう。ぬいぐるみ担当たんとうのお手伝てつだいさんが、いつもブラッシングしてくれてるからね。」

 べーべさんは恐竜きょうりゅうのぬいぐるみをて、また笑顔えがおこたえます。

「べーべさん。おひさしぶりです。ひかっているといえば、そのもいつもキラキラして、とてもきれいだパオーン。」

 そうってたのは、やはりパーティーではいつもべーべさんのそばにいる、ゾウのぬいぐるみでした。

「フフフ。黒曜石こくようせきに、宝石ほうせきこなりばめているんだ。いつでもキラキラさ。」

 そうってそのキラキラしたで、ゾウのぬいぐるみをビシッとつめます。

「べーべさん。おひさしぶりです。きれいといえば、お身体からだほころびやきずひとつもなくて、いつも素敵すてきですニャー。」

 そうってたのは、ネコのぬいぐるみで、やはりパーティーではいつもべーべさんのそばにいる一体いったいでした。

「ありがとう。ほころびやきずができたら、すぐにお手伝てつだいさんが修繕しゅうぜんしてくれるからね。まあ、大事だいじかざられているから、滅多めったにそんなことにはならないけどね。」

 べーべさんはそうこたえて、クルリとその一回転いっかいてんしました。

「べーべさん。おひさしぶりです。素敵すてきえば、そのちいさいおみみにもしっかり綿わたまっていて、手入ていれがとどいているのが、よーくわかるウサ。」

 そうってたのは、ながみみをしたウサギのぬいぐるみでした。やはりパーティーではいつもべーべさんのそばにいるぬいぐるみでした。

「ハハハ。そうなんだ。みみから綿わたけてフニャフニャにならないように、お手伝てつだいさんがいつもけてくれてるんだ。」

 べーべさんはみみさわりながら、堂々どうどうこたえます。

「ん?」

 そのときべーべさんは、ぐちくびかしげました。自分じぶんおなじクマのぬいぐるみが、いつのにか部屋へやはいってていたのです。

「フッ。」

 べーべさんは颯爽さっそうとそのクマのぬいぐるみに近付ちかづいてきました。

「やあ。こんばんわ。ぼくはべーべ。きみはじめてかおだね。パーティーははじめて?」

 するとそのクマのぬいぐるみは、くと無邪気むじゃきみでこうこたえました。

「うん!ぼくクーちゃん!」

 ガサガサッ

「パーティーにははじめてたんだ!」

 ガサガサッ

先刻さっきからなんだウホ。ガサガサおとがするウホ。」

 ゴリラのぬいぐるみがそううと、クーちゃんは身体からだうごかしてガサガサガサガサとおとらしていました。

いでしょっ!ぼくのご主人しゅじんのタカシくんいえはあまり裕福ゆうふくじゃないから、綿わたじゃなくて、おとなりさんからもらった新聞紙しんぶんしや、いろんなばこきざんだモノをれてるんだ。」

新聞紙しんぶんしや、ばこを……ウホッ。」

 それをいてゴリラのぬいぐるみはわらいをこぼしました。

一度いちど、タカシくんのおかあさんが、れなくなったふくきざんでめてくれたことがあったんだけど、タカシくんが『クーちゃんのこえこえないーっ』ってしちゃって、またもともどしたんだ。このおとはタカシくんとどく、ぼくこえなんだよっ!」

 クーちゃんはキラキラした笑顔えがおでそうつづけました。

「…そ、それは、かったなウホ。」

 ゴリラのぬいぐるみは、クーちゃんのキラキラした笑顔えがおて、まぶしそうにそういました。

「そ、それにしても、なんなんだそのよごれは?いろんなシミがたくさんいてるし、だってかたまってカピカピだギャオス。」

 フンとばかりに、恐竜きょうりゅうのぬいぐるみがそういました。

 するとクーちゃんはこうこたえました。

「ゴメン。きたないからタカシくんのおかあさんがいつも洗濯せんたくしてくれるんだけど、タカシくんは『ずっとぼく一緒いっしょだから』って、かわかないうちからぼくをいろんなところれてくものだから、すぐによごれちゃって、いつのにかほとんどのよごれがちなくなっちゃって。ヘヘッ。」

 そしてあやまりの言葉ことばとは裏腹うらはらに、れくさそうにうつむくのでした。

「…そ、それじゃあ、仕方しかたがないギャオスな…」

 それをて、恐竜きょうりゅうのぬいぐるみもなんだか意味いみもなくポッとしてうなずきました。

「えっと、き、になってたんだけど、その眼帯がんたいなんだパオーン。ち、ちっとも格好良かっこうよくないんだパオーン。」

 ゾウのぬいぐるみは、クーちゃんのて、そういました。クーちゃんの左目ひだりめはボタンです。そして右目みぎめ部分ぶぶんには、ゾウのぬいぐるみのとおり、まあるい眼帯がんたいななめにけていました。

「これは、ぱらったタカシくんのおとうさんが、ぼくんずけちゃって、右目みぎめのボタンがれちゃったんだ。タカシくんのおかあさんが、すぐにあたらしいボタンをけてくれたんだけど、タカシくんは『クーちゃんはこんなじゃないっ!これはクーちゃんじゃないっ!』ってっちゃうもんだから、タカシくんのおかあさんが、れたぼくぬのつつんで、眼帯がんたいにしてくれたんだ。」

 そしてクーちゃんは眼帯がんたいって、ってせました。

 カラッ、カラッ。

 れたボタンがおとを立てました。

「ボクの宝物たからものなんだ。」

 クーちゃんは眼帯がんたいむねいて、ニッコリわらいました。

「…へ、へー…よ、よくたら、やっぱり、か、格好良かっこういいんだパオーン。」

 ゾウのぬいぐるみは、ばつがわるそうにそういました。

「で、でも、そのうでは、ぬいぐるみなのに、みっともないんだニャー。」

 ネコのぬいぐるみが、クーちゃんの左腕ひだりうでしてそういました。

 クーちゃんは、人間にんげん怪我けがをしたときそうするように、左腕ひだりうでしろぬのるしていました。

「これはね、いじめっがタカシくんからぼくうばおうとしたんだけど、いつもかされてるタカシくんが、必死ひっしぼくきしめて、まもってくれたんだ。でもいじめっもムキになっちゃって、結局けっきょくうでがもげちゃってね。『クーちゃんがんじゃうう』ってタカシくんいちゃって、タカシくんのおかあさんがすぐになおしてくれたんだけど、『なおってないい!クーちゃんいたがってるう!』ってまなくて。だからタカシくんのおかあさんが、人間にんげんにそうするように、こうしてくれたんだ。」

「……」

結局けっきょくタカシくんは、ぼくなおったか、いたがってないかわからないから、ぬいぐるみなのにへんなんだけど、ずうっとこのままなんだ。」

 クーちゃんはいとおしそうに自分じぶん左腕ひだりうでをさすってそういました。

「…へ、へんなんかじゃ、ないんだニャー。」

 はなしいて、すこしウルッとしながら、ネコのぬいぐるみはいました。

「でも、さ、さすがにそのおおきなみみは、へんなんだウサ。」

 ウサギのぬいぐるみは、おおきくてれてしまっている、クーちゃんのみみしてそういました。

「これはね、いつも一緒いっしょながらタカシくんぼくはなしかけてるから、タカシくんが『ようくぼくこえこえますように』って、サンタさんにおねがいして、おおきくしてくれたんだ!」

 クーちゃんはパタパタとみみさわってそういました。

「サ、サンタさんに…?…お、おねがいしてもらったウサか?」

「うん!ようっくこえるんだよっ!」

 クーちゃんはうれしそうにそうこたえました。

「ふ、ふうーん。サンタさんがそうしてくれたなら、へ、へんなんかじゃ、ないウサね。」

 ウサギのぬいぐるみは、チラッ、チラッとうらやましそうにクーちゃんのれたおおきなみみながら、そういました。

「いつも一緒いっしょているのに、今夜こんやはよくパーティーにれたね。」

 べーべさんが不思議ふしぎそうにそう、クーちゃんにたずねました。

「うん。じつはもうぬいぐるみって年齢としじゃないだろうって、タカシくんのおとうさんが、ぼくれにかくしちゃったんだ。おかげで、パーティーにははじめてれたんだけど…」

 クーちゃんがすこさびしそうにそういました。

「……」

「……」

 ぬいぐるみたちにとっては、クーちゃんだけの問題もんだいではありませんでした。ほかのぬいぐるみたちも、いつかとおみちです。いえ、もうすでにとおったぬいぐるみたちも……

 ぬいぐるみたちにとって大事だいじなのは、フカフカの身体からだじゃありません。

 フワフワのでもありません。

 キラキラして高級こうきゅうでも、傷一きずひとつないきれいな身体からだでもありません。

 隅々すみずみまでとどいた手入ていれでもありません。

 ご主人しゅじん身体からだ気持きもさそうにいてもらうことです。

 ご主人しゅじんに『かわいい』ってめてもらうことです。

 ご主人しゅじんにキラキラしたてもらうことです。

 ご主人しゅじん大事だいじあつかってもらうことです。

 ご主人しゅじん大切たいせつにしてもらうことです。

 ぬいぐるみたちがしんみりとしてしまったときでした。

 ピクッ

 クーちゃんのれたおおきなみみうごきました。

 クーちゃんはパアーッとあかるい笑顔えがおになってこういました。

「タカシくんぼくさがしてくれてるっ!かくしたおとうさんのことおこってる!タカシくんぼくんでるっ!ぼくかえらなきゃっ!」

 クーちゃんはみんなをかえって、うれしそうにこういました。

ぼくつけたタカシくんは、きっとぼくことギューッてしてくれるよっ!あれ、すっごくいよね⁈ぼくあれ大好だいすきっ!タカシくんも、だあいきっ!!」

 そして満面まんめんみをかべるのでした。

「それじゃあ、またね!」

 バタンッ!!

 クーちゃんはべーべさんがときよりも、もっといきおいよくドアをけてかえってきました。

「…かったウホ。」

「…きれいでギャオス。」

「…かがやいていたパオーン。」

「…素敵すてき関係かんけいニャー。」

「…うらやましいウサ。」

「…ご主人様しゅじんさま……」


「「「「「「ギューッていよねえ♡」」」」」」


 久々ひさびさのぬいぐるみたちのパーティーは、最後さいごはしんみりと、そしてホワッとして、どこかあったかあいよるでした。

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クーちゃん @LaH_SJL

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