ぬいする怪異

黒幕横丁

ぬいぬい怪異

「これは……ぬいぐるみ?」

 昼休み。屋上用具倉庫。ボサボサの黒髪にヨレヨレのカッターシャツ姿の佐久耶先輩は手のひらサイズのサボテンのぬいぐるみを軽くムニムニ潰して遊びながら私に問う。

「はい。この間近所のゲームセンターで取ってきたんですが、何か使えないかなぁって思って先輩のところへ持ってきた次第です」

「スイカのぬいぐるみに使い道ありますかねぇ……」

 先輩、それ、サボテンです。

「おっと失敬。というか、ワシはてっきり伊佐波(イサナミ)くんの手作りのものかと思ったのに既製品だったのですか。これほどに画伯センスのあるデザインのぬいぐるみが存在するとは」

「先輩、それ何気に酷くないですか? で、これって使えますかね?」

「使うとは?」

「決まっているじゃないですか、新しい怪異にですよ」


 私の通っている学校にはこんな噂がある。

 ――屋上にある用具倉庫。そこにはお化けが住んでいて、日夜怪異を生み出しているんだって。

 ホラーが好きな私が入学して早々その話を聞きつけ、用語倉庫を開けると、そこには佐久耶先輩がいてなんと彼自身が怪異を生み出していたのだ。

 そんな先輩の秘密を知ってしまった私は、自身が怪異の餌にならないように怪異になりそうなものを先輩に献上しているという寸法だ。

 まぁ餌にされそうになっている恐怖よりも、私のホラー好き好奇心の方が勝っているのだが。


「伊佐波くんには残念なお知らせになってしまいますが、このぬいぐるみはいくらワシがどうにかしようとしても怪異にはならない」

「えー! どうしてですか! サボテンだからですか!?」

「ぬいぐるみの種類云々という問題じゃない。答えは至極明快。“気持ち”がこもっているかどうかだ」

「気持ち……」

 先輩はサボテンのぬいぐるみを手の中でにぎにぎと握る。

「これは大量生産されている既製品だ。しかも、伊佐波くんが手に入れて間もない。つまりはぬいぐるみに持ち主の気持ちが込められてない。中身がない怪異は空気の入ってない風船みたいなものだ。ワシが力を与えたって動くことすらままならないだろうな。つまりだ」

 先輩は私に向けてぬいぐるみを投げ返した。

「手っ取り早く怪異にしようとするなら伊佐波くんの手作りぬいぐるみでも持ってきたまえ。おそらく、すごい怪異が完成するだろう」

「マジですか!」

「あぁ、このワシに任せろ!」


 後日、犬(に見せかけた形容しがたい姿のとろけた何か)が校内をうろつくという怪奇現象が発生したのはまた別のお話。

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