第28話 廃遊園地②
海賊船でも特に何もなく、検証を終えた朔夜くんとコタローくんは、ジェットコースターを目指した。
「『点検作業員』……か」
ジェットコースターを見上げながら、朔夜くんがポツリと呟いた。
「点検作業中に事故が起こったんだよな」
「ん、ネットにはそう書いてあった」
ここの遊園地のジェットコースターでは、早朝のメンテナンス時に、作業員がレール上にいることを見落とした、別の作業員ジェットコースターを動かしてしまったことにより死亡事故が発生したと言われている。
その事故で亡くなった男性が、『点検作業員』として、作業を続けている姿が目撃されたそうだ。
深夜に肝試しに訪れた若者達が、自分達と同じく肝試しに来た人だと思って挨拶をしたら、『どうぞごゆっくり』と、血塗れの作業着姿の男性に返事をされたとの話もある。
――この事故が、遊園地の廃業に繋がった最大の理由であるとも噂されている。
「足に気をつけろよ」
「ん」
ジェットコースター乗り場に続く階段の手前にあるチェーンを朔夜くんが跨いだ。
シーンと静まりかえった園内に、錆び切った鉄階段をカンカンカンと上って行く二人の足音だけが響いている。
階段を上りきった先には、またチェーンが掛けられていた。足の長い二人はそれを危なげなく越えて行く。
何とも羨ましい限りである。
その先には、コースターライドが停まっていた。
長年野晒しにされた
座席の足元にポッカリとした穴が空いてしまっている車両もある。どれも当時の姿を想像するのが難しい状態だ。
先頭の車両付近には、ジェットコースターを操作をするための小屋があった。
風除けのためのガラスは割れており、中にあったはずの機械は見るも無惨なほどに破壊されていた。
恐らくは、侵入した誰かが壊したのだろう。
レールも色が落ち、錆び付いてボロボロなのが見えた。
「……寂しい光景だな」
朔夜くんは、やるせなさを滲ませたような顔をしていた。
「朔夜、駄目」
コタローくんは、朔夜くんの瞳を真っ直ぐに見つめながら、咎めるような強い口調で言った。
「この場所の雰囲気に飲まれると、連れて逝かれる」
――違う。
コタローくんは、朔夜くんの越しにいる何かを見ていたのだと、私は遅れて気付いた。
いつの間にか現れた黒いモヤのようなモノから伸びた手が、朔夜くんの頭の後ろから掴もうとしている。
……どうしよう!?
「…………」
焦る私とは対照的に、コタローくんはあくまでも冷静だった。
ボーっとし始めた朔夜くんに向かって、ポケットから取り出した何かを勢いよく投げ付けた。
ベシッ。
「いっ……!いったぁあーー!おま、いきなり何すんだよ!?」
朔夜くんが叫ぶのも無理はない。
かなり痛そうな音だったもん……。
朔夜くんの額に思い切りクリーンヒットしたソレは、不思議なことに額に貼り付いたままだった。
「……っ!んだよ!もう!!」
朔夜くんはムスッとしながら、自分の額に貼り付いたままのモノを掴んだ。
アッサリと剥がれたものの、額には真っ赤な跡が付いている。
「……って、コレ……」
剥がしたモノを見た朔夜くんがピタリと止まった。
ヒィィィ……!!
――対して私は、二人から一気に距離を取った。
「先生の御守り。朔夜、ココと相性が良すぎるみたいだから、ちゃんと身に着けてて」
「……オーケー」
朔夜くんは、腑に落ちたような、落ちてないような微妙な顔をしていたが、素直にポケットの中に御守りを入れた。朔夜くん自身、何か感じるものがあったのかもしれない。
あ、あ、あ……あぶ、あぶ、あぶ、危なかったぁぁ!!
コタローくん達の先生の御守りは強力すぎて、私のような浮遊霊は一瞬でパーーーン!だ。欠片すら残らない。
あな恐ろしや……恐ろしや。
「『スーパーヒーロー』も『点検作業員』も
「……そっか」
朔夜くんは眉を寄せながらはにかんだ。
「それよりも……厄介なのがいる。一人検証は止めて、早めに帰ろう」
「そんなにか?」
「ん。噂の原因は、全部ソイツだと思う。擬態して遊んでるから
キネクトカメラには映らなかったものの、『スーパーヒーロー』のような人影をコタローくんは広場で見かけていたらしい。
『後で』と言ったのは、その人影に違和感を持ったから。
『スーパーヒーロー』からは、憧れていた役を演じる喜びも、悲しみも何も感じるものがなく、空っぽの器の中に悪意だけが見え隠れしていたそうだ。
そこで、もう一つの目撃情報である『点検作業員』を見てから判断したかったのだと言った。
ジェットコースターに来てみると『点検作業員』は、古びてボロボロになったレールの上に居た。
作業するでもなく、ただただ朔夜くんを見ていた。
やはり先ほどの『スーパーヒーロー』と同様の悪意を漂わせて……。
「あそこのレール部分、写真撮って」
コタローくんが指差した場所を朔夜くんがスマホのカメラを使って何枚か撮影していくと――最後の一枚に真っ赤なオーブが映った。
「赤いオーブ……!?」
赤いオーブには、警告とか注意とかの意味合いがあるというのを聞いたことがある。
コタローくんの話を聞くからに、悪意のある危険なモノがいるのは間違いない。
「#@%$」
「何か、聞こえたぞ!?」
「さっきからずっと、移動しながら笑ってる」
笑っている霊もまたよくないモノだと言う。
「昔からこの土地に憑いてる悪いモノだと思う。先生の方が強いから平気だけど、後で相談してみる」
「その方が良いかもな。結構、侵入してるような形跡もあるし」
「取り返しがつかないことになる前に」
二人は互いに見つめ合うと、大きく頷いた。
――その後、慎重に撮影を続けた二人は、今夜の動画を【閲覧注意】【真似するな危険】のタグを付けて、メンバーだけに公開することに決めた。
動画だけでなく、オーブの映った写真と先生からの警告のコメント動画も付けて。
「私の警告を無視して肝試しに行ったりしたら、覚えていなさい。ぜーーんぶ、視えているわよ?捨てても良い身体なら、私が代わりに使ってあ・げ・る☆」
ドアップで微笑む先生の顔が、今も頭から離れない。
オネエ先生怖い……。
ガクガクブルブル。
『ウニャニャニャニャ!!』
(我は世の光なり!!)
人が恐怖に震えているというのに、クロちゃんは屋根の上のアンテナを十字架に見立てて、不謹慎にもキリストごっこをしてしている。
つい最近までボロ雑巾のように萎れていたというのに、小学生男子による心の傷は癒えたのだろうか?
相変わらずの厨二猫っぷりには、呆れを通り越して思わず感心してしまう。
『ウニャ!ニャニャニャーーニャ!!』
(求めよ!さすれば与えられるであろう!!)
……そうか。本猫がそう望むのならば……。
『カーカーカカ!!』
(やかましいわ!!)
『ウ゛ニ゛ャ!?』
(ぎゃー!?)
無防備に晒していたお腹をカーコに突付かれたクロちゃんを横目に見ながら『何かあった時はコヤツを身代わりに差し出そう』と、私は心に決めた。
『ウニャニャ、ニャーニャニャミヤーー!!』
(ひなた、我を救いたまえーー!!)
安らかに眠りたまえ。アーメン。
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