第27話 廃遊園地①
「皆さん、こんばんは〜!ツヴァイリングホラーチャンネルの朔夜デッス☆」
「……コタローです」
「俺達は、◯県で超有名な廃遊園地に来ています。……って、俺達は特別な許可をちゃんと取ってココにいるからな?不法侵入は犯罪だぞ!絶対にしちゃ駄目だからな〜?」
「ん、絶対駄目」
人差し指を立てて笑顔で言った朔夜くんに合わせて、コタローくんが大きく頷いた。
――コタローくんが熱を出した日から三日後。
熱で顔を真っ赤に染めてぐったりしていたコタローくんは、すっかり元気になったようだ。遠目からでも顔色が良いのが分かる。
普段目にすることができない弱々な推しの姿もムフフだったけれど、やっぱり元気な推しが一番最高デッス☆
幽霊の私が言うと説得力あるでしょ?
「1990年代初期に開業したこの遊園地ですが、開業当時は全国の遊園地の中でもトップクラスの来場者数を誇っていたものの、他の巨大遊園地の開業による来場者数の激減により経済的に困窮し、老朽化した遊具の整備もままならなくなり、二十年ほど前に運営会社が倒産して、廃業となったそうです。遊園地内にある遊具は撤去されることなく今も残っており、真夜中になると勝手に動き出すとの噂があります。――実際、俺達の後ろにメリーゴーランドあるけど……なかなかの迫力があるよな」
「ん」
こくんと相槌を打ったコタローくんは、ぐるりと視線を彷徨わせた。
「何か居るのか?」
「……今んとこ在るけど居ない」
「何だそれ。なぞなぞかよ」
「違う。念は残ってるけど、霊体はいない」
「へえ〜、なるほどな。つか、今夜はカメラ回ってるのに沢山喋ってて偉いな」
「……」
朔夜くんがコタローくんの頭をワシャワシャと撫で回すと、それを振り払うようにコタローくんが無言で大きく腕を回した。
「……痛い」
「あははは。悪い、悪い」
朔夜くんは少し笑った後に、キリッと表情を引き締めた。
「さて。ふざけるのはここまでにして、っと。んじゃ、今夜もしっかりと気を引き締めて、検証して行きたいと思います。安全が一番大事。危なくなったら躊躇なく逃げるぞ」
「ん」
「では、今夜も最後までお付き合い下さい☆」
オープニングを撮り終えた二人は、いつものように定点カメラを設置すると、※特製のGoProとライトを左手で持った。
※朔夜くん達は、進行方向と自分達が一度に撮影できるように、GoProを二つくっ付けて使ってるよ!
「今夜はキネクトカメラを使って行こうと思います。沢山反応が出ることを期待して……っと」
右手に持ったスマホで、キネクトカメラを作動させた朔夜くんが、いつものように先頭を歩き出す。
そして、少し遅れてコタローくんも付いて行く。
「心霊好きの視聴者さんならご存知のキネクトカメラですが、幽霊とか何かしらの反応がある場所には、棒人間のような物が映ってくれます。――コタロー、試しにどこか映したいんだけど、どこが良い?」
「あの馬」
「了解ー」
コタローくんが指差したのは、メリーゴーランド内の一番高い位置で止まっている一頭の馬だった。
コタローくんの指示通りに、朔夜くんがスマホを向ける。
「うお……!マジか」
キネクトカメラに、騎乗しているかのような棒人間が映った。
まるではしゃいでいる子供のように、手を上げたり、馬の背に立ち上がっているような映像が、次々と映し出されていく。
「……コレは、念なんだよな?」
「ん。一番楽しかった瞬間に焼き付いてる記憶の残像に近い」
「へー、視えない側からすると全く違いが分かんないな。……と、まあ、こんな風に映りします」
朔夜くんはそう言うと、また歩きだした。
「因みに、『真夜中に動き出す遊具』の他に、『スーパーヒーロー』と『点検作業員』という、二体の霊の目撃情報があるそうです。丁度、この先に広場があるんですけど……そこで目撃されているのが『スーパーヒーロー』なのだそうです」
『スーパーヒーロー』とは、ヒーローショーに、出演する予定だった役者希望の青年の幽霊だと言われている。
幼い頃からスーパーヒーローに憧れていた青年は、長年の夢であった初のステージに向かっている最中に、不幸にも交通事故に遭い、そのまま亡くなってしまったそうだ。
突然の出来事に、自分が亡くなったことも気付かない青年は、今も尚、広場にあるステージで憧れのヒーローを演じ続けているのだという。
「先ず、ここが観客席ですが、キネクトカメラには特に反応が見られません。そして、向こうが問題のステージ側になりますが…………隅から隅まで映しても、何の反応もありません」
キネクトカメラに映っているのは、ただの真っ暗なステージだった。どこに向けても棒人間は映らない。
「作り話だったのかな?俺的に今のところ嫌な感じもありません」
朔夜くんは視えない人だが、感じることができる人だ。
その能力は、私が身を持って実証済みである。
「コタロー的には?」
「ん……、後で」
「後?別に構わないけど……じゃあ、次の場所行くか」
コクリと頷くコタローくんを少しの間不思議そうな顔で見ていた朔夜くんだったが、先に進むことにしたようだ。
「広場を抜けると、一番奥の左側にジェットコースターの乗り場と、右側の手前に海賊船の遊具があります。一番奥にあるジェットコースターは、もう一体の霊の目撃場所でもあります。作業着姿の男性。『点検作業員』ですね。取り敢えず、右側の手前にある海賊船から行こうかな」
一度立ち止まってライトで奥を照らした朔夜くんは、右側に見えた海賊船の方へ向かって進んで行く。
少し進むと、目の前に海賊船が現れた。
この遊具は、振り子の原理を利用しており、中でも船体の最後列に乗車すると、直角に落ちるような体験ができる絶叫系のアトラクションである。
……因みに、高所恐怖症の私はとても苦手である。
膝の上辺りを安全バーで固定して、落ちないようにするのだが、ソレだけなのだ。全然安全じゃない。
ジェットコースターは、もの凄い勢いで走り抜けて行くのでまだ大丈夫だけど。
前のめりに頭から転げ落ちてしまいそうな、落ちそうで落ちない感覚が怖いのだ。
好きな人は、その感覚が好きなのだそうだが……分かり合える気がしない。
「……懐かしいッスね。って言っても、ココじゃないですけど。最近、遊園地とか全然行けてないからなぁ」
朔夜くんは、全体を見回した後に苦笑いした……?
「俺、ジェットコースターとかは得意ですけど、海賊船みたいな振り子の系アトラクションは苦手なんですよ。コタローは何でもイケるみたいだけど。双子なのに不思議ですよね〜」
おお……!意外だ!!
朔夜くんの方こそ『何でもバッチコイ!』だと思っていた。意外や意外。共感ができる話は好感度が上がるわ〜!
「……違う。朔夜のは、苦手とは言わない」
「ん?何だ、何だ?珍しく急に反抗しだしたな」
「……そもそも、苦手になった理由がおかしい」
振り返った朔夜くんに、ジト目を向けたコタローくんが、ポツリポツリと話し始めた。
小学五年の頃。母親の里帰りに同行した朔夜くんと、コタローくんは、従兄弟達と一緒に地元にある小さな遊園地に遊びに行ったそうだ。
その日はタイミングが良いことに、月に一度の乗り放題フリーパスの発売日だったそうで、フリーパスを買ってもらった朔夜くんは、従兄弟達と遊園地を多いに楽しんだそうなのだが……。
地元民がほとんどの遊園地は、待ち時間がほぼ無く。
ジェットコースター⇒海賊船⇒ジェットコースター⇒海賊船の無限ループを朔夜くん一人で、二時間ほど続けたらしい。
※コタローくんと従兄弟は途中で離脱した。
ハイテンションで、遊園地――ジェットコースターと海賊船を満喫していた朔夜くんだったが、海賊船を乗り終えた後に、突然体調に異変が起こした。
禄に水分も取らずに遊んでいたために、熱中症になってしまったのだそうだ。
海賊船を乗り終えた後に、とてつもなく気分が悪くなったという記憶が今も根強く残っているせいで、朔夜くんは海賊船が苦手なのだそうだ。
「朔夜は、苦手だと言うくせに、五回は必ず乗る」
「あー、乗るな〜。ジェットコースターに比べて苦手なだけだから」
……規格外すぎる。
共感できるとか、できないとかいう、次元ではない。
異次元の話だった。
コタローくんはと言えば、苦手でも得意でもなく、単に飽きてしまうのだそうだ。
色々な遊具をほどほどに楽しみたい派のようだ。
……うん。まだコタローくんの方が共感できるぞ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。