第24話 先立った幽霊には先立つものがない
「はぁぁ……。幸せ……」
永遠にバッテリーの切れないスマホと、何撤でもできる制限のない自由な生活。
「幽霊生活って、実はかなり良いのでは!?」
『……カーーカァ、カーカー』
(……またおかしなこと言い出した)
「だってさ!仕事なんてしなくて良いし!食事代も賃貸もかからないんだよ!?」
ジト目のカーコに力説をする。
『カーーカカー。カーーァ、カーカーカーーカー。カーカーカーカー?』
(働いたことないから私には分かんないわ。でも、普通はそんなに良いもんじゃないでしょ。誰かさんとは違ってね?)
カーコはチラリとスマホに視線を向けた後に、羽(肩)を竦めた。
「……………そう?」
『カーカーカーーー、カカーカカーーーァ。カーァ?カーカーカー?』
(再生回数は伸ばせても、コメントできないし。投げ銭?とやらもできないんでしょ?)
「そうだった………!!」
動画の視聴はできるけれど、コメントは残せない。
出来るとか、出来ないとかの問題じゃなくて、倫理的な問題かな。
生者の倫理を幽霊にも適用させるのはどうかと思うが、こうして理性がある内は守りたいと思う。
ぶっちゃけ、誰も私のアカウントなんか気にも止めていないかもしれないけどね。万が一がある。
かと言って、愛着のあるアカウントをまっさらにもできない。
……つまり、朔夜くんとコタローくんが、どんな神動画を作ろうとも、日頃からの感謝を伝えたくとも、コメントが一切できないのであーる。
更に言えば、社会人推し活の醍醐味である投げ銭もできない。
……だって、幽霊だもの。
お金なんてありませぬ。
あの世に旅立つために必要な六文銭は、何故かスマホにチャージしてあったけれど、家族が用意してくれたであろう大事な片道切符代を推し活に使うのは憚られる。
……というか、今は冥界もキャッシュレス化ですか?!
因みに、六文銭を今の価値で換算すれば180〜300円ほどらしい。
「ぐぬぬぬ……。やっぱり幽霊はダメダメだ……!」
積極的に働きたくはないけど、推しのためになるならば話しは別だ。
幽霊を雇ってくれる企業なんて、世界中探したってきっとどこにもない。……故に。
「死んだら終わりだぁぁぁぁあ!!」
『カーカーカー』
(はいはいはい)
……クスン。カーコが慰めてくれない。
「そういえば、クロは?」
チーンと鼻水をかんでから、ふと思い出した。
一昨日の昼間に別れたっきりだったことに今頃気付いたのだ。
キョロキョロと辺りを見渡してみるものの、姿が見当たらない。
いつもなら私の側にいて、『ニャオーーン゙(地味カワ萌え〜)』と頭を擦り付けてくるはずなのに。
わざわざ朔夜くんとコタローくんの家の屋根に引っ越してきたクロが何も告げずにいなくなるとは思えないのだけど……。
『……カーーカーカーァ』
(……今頃気付いたの?)
カーコのジト目が復活した。
「うっ……すみません」
動画の視聴に夢中になり過ぎてて、一ミリも思い出さなかった。テヘッ。
「……カカーァーカ」
(……あそこよ)
ジト目のカーコの視線の先を辿って行くと――――
「……使い古されたボロ雑巾?………じゃなかった!」
実は、一昨日前から、使い古されたボロ雑巾のようなものがテレビのアンテナに絡まっていることには気付いていた。
しかし、クルンとしたアホ毛が可愛いカースケが、常日ごろから変な物ばかり集めてくるものだから、気にしないようにしていたのだ。
今回もソレだと思っていたのに、まさかクロだったとは……。
「……クロ?大丈夫?」
「ニャ……ニャ……ニャ……ニャ……ニャ」
(ロリ……ショタ……ロリ……ショタ……ショタ……ショタ)
「……何かの呪文かな?」
カタカタと頼りなく小刻みに震える身体。
くっきりと開いた瞳孔と、繰り返される意味不明な言葉。
「ニャ……ニャ……ニャ……ニャ……ニャーー!!」 (ロリ……ショタ……ロリ……ショタ……ショタ……ショターー!!)
あの日、クロに起こったことの顛末は聞いていたけれど、こんな壊れかけのレコードのようになってしまうほどショックだっただなんて。
今時の男子小学生……恐ろしや。
「骨は拾ってあげるね。どうか安らかにお眠り下さい」
「……カーーーァ!カーカーカーカーーーカア!!」
(……止めなさい!幽霊に弔われるだなんてシュールすぎるわ!!)
「……っだ!」
そっと手を合わせて目を閉じると、カーコの手刀が私の後頭部に直撃した。
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