第25話 弱っていても、いなくても、推しは尊い存在です。
さて。お待ちかねの今日の【ツヴィリングホラーチャンネル】の撮影ですが…………………おや?
「お前が熱出すなんて、久し振りだな」
「……ごめん。撮影日だったのに」
「気にすんなって。今夜はフリーのトコだったし。二日、三日撮影しなくても、配信できるくらいはストックあるしな」
体温計を眺めた朔夜くんは、白い八重歯を覗かせながらニカッと笑うと、ベッドに横たわっているコタローくんの額に、冷え冷えシートをペタリと貼った。
「………っ!」
冷え冷えシートを貼られたコタローくんが、ブルッと大きく身体を震わせた。
「はははっ。お前、コレ苦手だよな」
「…………」
「まあ、俺も苦手だけどな」
朔夜くんが笑いながら冷え冷えシートを指で突付くと、コタローくんの眉間に深い縦ジワが刻まれた。
「『じゃあ、ゆっくり寝てろよ』――と、言いたいところだけど。お前のことだから、罪悪感でなかなか眠れないのは目に見えてる。つーことで、眠くなるまで海外ホラー動画検証すっぞ」
どこからともなくノートパソコンを取り出した朔夜くんは、コタローくんの枕元に腰を下ろした。
「コタローに是非検証して欲しいっていう、視聴者さんのコメが多いヤツを厳選してある」
ヘッドボードに身体を斜めに預けて足を組んだ朔夜くんは、横になっているコタローくんからも見えるように画面を傾けた。
慣れた手付きでソフトを開いていく。
……え?
二人は付き合ってるのかな?(動揺中)
めっちゃ優しい朔夜くんから、スパダリの香りがするだけでなく、いつも素直で可愛いコタローくんが、顔を赤く染めて、瞳なんてもうウルウルしてて…………こんなの昇天するんだが?――勿体ないからしないけど。(キリッ)
萌えがエモくて、萌え萌えでエモエモで、モエエモモモモモエモエエモエモモエモエエモエモ!!!!
――――じゃないでしょ!私!
コタローくんが熱を出してしまったために、今夜の外ロケは止めて、自宅で動画を検証することにしたらしい。
コタローくん、大丈夫かな?
風邪なんか滅多に引かないし、熱も出さないって言ってたのに。
いつも二人が出掛ける時間になっても出て来ないので、家の外側をぐるりと回って探していたら、コタローくんの部屋で二人を見つけたという次第なのです。
因みに、私のいる場所からは二人の見ている動画は見えないのだけれど――――……ぐはっ。画角最高………!
ホント、不謹慎で申し訳ないのだけれど……ご馳走様です。
「じゃあ、まず一個目な。【深夜の乱入者】だって」
朔夜くんの指が、トントンと二回クリックパッドを叩いた。
少しの静寂の後。
バン、バンバンバン!!
『『キャァァーー!』』
『オーマイガー!』
『ジーザス!◯✕$#%@!!』
大きな物音と複数人の男女の悲鳴みたいなものが聞こえてきた。
窓の外にいる私から動画は見えないものの、その音声から海外の動画であることが分かる。
二人の見ている映像はとても気になるけれど……。
良いの。寧ろ良かったの。今が良い。
朔夜くんとコタローくんが寄り添う姿が眼福だから。
幸せなの。
「ええと、『これは、とある施設の監視カメラの映像です。深夜、突然部屋の扉が次々と勢いよく開いていきます。そして、そこには開いていく扉に合わせて黒い影のようなものが動いていくのが確認できます』だってさ」
おお……!朔夜くん最高!
この説明めっちゃ助かります!!
正に神対応ですね!!!
「シャドーピープル系だな。んで、どう?」
「ん、合成」
「だよなー。設定は面白いけど、作りが雑なんだよなー」
コタローくんが即答すると、朔夜くんが苦笑いを浮かべた。
「んじゃ、次。【少年達を襲うもの】」
苦笑いを浮かべたまま、指先がまたトントンとクリックパッドを叩く。
聞こえてきたのは、英語……かな?
楽しそうな雰囲気は伝わってくるけれど、どんな会話をしているのか全く聞き取れない。
なるほど。私は外国語が苦手らしい。
字幕は大事。(メモ)
『◯✕△@!?』
『%#@☆◇!!』
先ほどまでの楽しそうな会話から一変し、何やら早口でまくし立てているような声がした。
最後に叫び声が聞こえたところで、朔夜くんが笑い出した。
「完璧なやらせだな」
「ん」
「『これは少年達が、深夜の学校で肝試しをしている時の映像です。一人の少年が背後から迫ってくる人影のように気付き、急いで逃げますが、いつの間にか回り込んで来た人影に襲われてしまいます』……って、B級ホラーかな。カメラのアングルとか上手く使えば、簡単に作り込めるな」
なるほど。なるほど。
今回はそんな動画でしたか。
「次は……【笑う人形】っと」
残念ながら、次の動画は無音だったので、二人の表情を思い切り堪能することにする。
あらあら?まあ、うふふふ!……あれ?
怖い動画なのか、朔夜くんの顔が少し引き攣っている。そんな朔夜くんとは対照的に、平然と見ていたコタローくんの瞳が一瞬だけ大きくなった。
何か見つけたのかな?と、首を傾げたところで動画は終了したようだ。
「……俺的にはマジモンかなーと思うけど、コタロー的にはどうなん?」
「んー。……朔夜、一分十三秒で止めてみて」
「オーケー。因みに『この動画は、ビスクドール収集愛好家が、貴重なドールの盗難防止策として設置した監視カメラの映像の中にありました』だってさ」
パソコンを操作しながら説明した朔夜くんは、コタローくんが指示した秒数の少し前からスロー再生を始めた。
「ここ」
「ここって…………まさか」
「ん。この人形笑ってるけど、少し後の一分十三秒に映ってるこの霊が操作してる」
「は!?ヤバ!!コイツ笑ってね!?……笑ってるヤツってかなりヤバいんだよな?!」
「ん。これは悪霊になってる」
悪霊!?見たい!!!……のに見れない。
これって、どんな拷問ですか!?!?(泣)
「……御祓いされてることを祈るか」
険しい顔で眉間を押さえる朔夜くんに合わせて、私も合掌しておいた。
――――その後。
朔夜くんとコタローくんが、十本ほど動画を見たけれど、いずれもやらせか合成だったようで…………。
流石のコタローくんも、熱と疲れでウトウトし始めていた。
「コレで今日の仕事はお終いだ。だから、ゆっくり寝ろよ」
眠る寸前のコタローくんに、しっかりと布団を掛け直しながら朔夜くんが言う。
「先生が心配してたぞ。お前の気が弱ってるって」
「……」
「俺にはよく分かんないけど、お前は一人じゃないからな。何かあるなら俺に頼れよ」
「……ん、あり……がと…………」
コタローくんは口角だけ少し上げた後に、スヤスヤと寝息を立て始めた。
「約束だからな」
コタローくんの額に手を当てた朔夜くんは、強い意思を瞳に宿らせたまま、コタローくんの部屋をそっと後にした。
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