第23話 死亡時期が判明しました。

――自分が幽霊になってしまったと気付いた時。

生前の自分の記憶はほとんどなく、覚えているのは名前と性別という状況下で、何故かスマホを持っていた。


どうにかして自分のことを思い出そうとしている最中に、ふと私の頭を過ったのは【YouT◯be】の存在だった。


『生前の私は、どんなに疲れきっていようが、高熱にうなされようが、余程のことがない限りは365日リアルタイムで配信を見ていた。

リアルタイムの配信が見れなかった時は、悔し涙を流しながらアーカイブを見ましたとも』


そう言っていたように、私は【ツヴァイリングホラーチャンネル】を今までずっと見続けていた。


そんな私が知らない動画が存在するのならば、その時期が私のになるのでは?と思った。


その時は残念ながらアプリが起動せず、見ることができなかったのに、何の因果か……今頃になって、見られるようになるとは。

全くもって意味不明なスマホと、私の状況である。


ある程度の覚悟はしていたものの、実際に目の当たりにすると、笑いたいような、泣き出したいような、何とも言えない複雑な気持ちで困る。



私の死亡時期を裏付ける二つの事柄。

それが『一つ目の境界線』と、『明確な境界線』の存在だ。


まず『一つの境界線』とは、私が幽霊になった後(推し活開始後)に投稿された動画と、その直前に投稿された動画との境目のこと。


次に『明確な境界線』とは、生前の私が最後に見た動画と、その次に投稿されていた動画との境目のことである。


死因が分からない今はまだ、ざっくりとした死亡時期であるとしか言えないが、自分を知るという意味では、とても大きい。



その一つ目の境界線の存在を実際に目の当たりにした私は、思わず【ツヴァイリングホラーチャンネル】を一度閉じた。

想像していたことが、正にそこに在ったのだ。


動揺のあまりに、知らない動画をあたかも知っているかのように、何度も何度も確認して『知っている』だなんて思い込もうとする自分と、その一方で、幽霊という既にとんでもない現実を突き付けられているがために、極めて冷静な自分がいた。


一種の防衛反応なのかもしれないが、この期に及んでの現実逃避は無意味である。

死因を突き付けられて動揺したのなら、まだしも。


――死んだ人間は生き返らない。


私達のいる世界は、空想世界ファンタジーではなく、悲しいほどに現実世界リアルだ。

蘇生魔法は使えないし、死者を復活させてくれる神様もいない。


……幽霊わたし

そこは……………まあ、白黒付けずにグレーということで!!


見えない人にとっては存在しないモノだし、見える人には当たり前のように在るモノなので!!



現実逃避をしようとした自分に、今の私が措かれている状況を理解させるために、他の登録チャンネルを次々に開いていき、知らない動画を探し続けるという追い込みをしたのである。


記憶というものは、とても不確かなものだ。

記憶の衰えと共に、事実は少しずつ形を変えていき、その時の感情のままに、捏造されている可能性がある。


自分のことを殆ど忘れている今の私ならば特に。

だから、という自身の記憶を裏付ける『証拠』が重要だった。

その証拠になるのが【視聴履歴】である。


視聴履歴しょうこを見た後に、もう一度【ツヴァイリングホラーチャンネル】を開いた私は、『明確な境界線』にあたる動画を探して――――理解した。



投稿された動画には、再生回数と共に『投稿時期』が載っている。


『一つ目の境界線』である動画【深夜に悲鳴?◯県の有名廃遊園地跡地】の投稿時期は、二ヶ月前。


そして『明確な境界線』の動画【朔夜の体調に異変?港町の廃ホテル】の投稿時期は、三ヶ月前。




……って、何これ!? 

こんなの絶対に見たいし! 気になるんですけど!!!

私、コレを見逃して死んだの!?!?

信じられない……!!

ああ、他にも何本見逃してんのよ、私!!!

【ツヴァイリングホラーチャンネル】は、大体三日に一度の投稿だから――――あ。


ん゙ん゙っ。コホン。……失礼しました。


――最後に見た動画は、約三ヶ月前。

それは、他のチャンネルの動画の投稿時期とも合致していた。


因みに、投稿時期は『◯日前』『◯週間前』『◯ヶ月』などの大雑把な表記である。

朔夜くん達は、SNSで投稿日時の予告をしているので、更に詳しい時期を調べることは可能だ。



私が死亡したと思われる時期から、幽霊となって現れるまで……約一ヶ月ほど。


三ヶ月前の私に、一体何が起こったのだろうか?


死亡時期は分かったものの、依然として名前と年齢以外の自分のことを思い出せない。





「………………………………………………っだぁぁあ!!もう我慢できない!!!!」


私は迷うことなく、【朔夜の体調に異変?港町の廃ホテル】の再生ボタンを押した。


「けしからん!けしからんぞーー!!」


今までの我慢が爆発した私は、これまでに見れなかった分を取り戻す勢いで動画の視聴をした。




『カーーーァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!』

(けしからんのはお前じゃ、ボケ!!)


叫んだ私に驚いたカーコに、回し蹴りを三度ほどされたが、問題はない。目玉は死守した!!




――私、ひなた。二十七歳。

三ヶ月ほど前に死んだみたいです。

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