第18話 夜の神社③
赤子のように小さな体。手足は骨のように細く、
闇と同化し、木々の間からこちらを伺う。
この世ならざるモノ。
…………あれは、餓鬼?
それも一匹だけではない。
下半身だけの霊の影に二匹、その他に三匹……?
いや、もっといるかもしれない。
『魑魅魍魎が跋扈する夜の神社』
……なるほど。
これは、幽霊なんかよりも
取り憑かれでもしたら、かなり面倒なことになるのが、目に見えるようだ。
一般的に、餓鬼に取り憑かれると、憑かれた瞬間から激しい空腹感に襲われ、身動きが取れなくなる。食べ物を口にすると、外れるらしいけれど――朔夜くん、何か持ってるかな?
昼間ならまだしも、今は夜だ。
周りに人はおらず、コタローくんもいない。
何も視えていない朔夜くんが、咄嗟に対処するのは不可能である。
私が触ろうとしても擦り抜けちゃうだろうし……。
ジジジ……カチカチカチ……ビャ…ジジ……。
「……めっちゃ反応したり、しなかったりを繰り返してるのは、どういうことッスかね。……もしかして、俺に近付いたり、離れたり、繰り返しているのかな」
ある意味正解デス!!
カメラに映らないギリギリの死角で、朔夜くんに取り憑こうとする生意気な餓鬼モドキVS私による攻防戦が繰り広げられている。なうです。
威嚇するために振り上げた私の拳が、トリフィールドのセンサーに反応しちゃっているのです。
朔夜くんは絶対に私が守る!!
推しに触れようとする不埒な輩は、何であろうとも……ユ・ル・サ・ナ・イ♡
推しは不可侵。お触りは厳禁です。
シュッ、シュッ。
何もない空中に向って、捻りを加えたパンチを繰り出した後に、拳を握り締めながらにっこり微笑むと、餓鬼モドキ達は怯えたように身体を竦ませて、遠くの木陰の方へ逃げて行った。
私の推し
まあ、取り敢えず、私の威嚇が効いている餓鬼モドキは大丈夫だと思う。
問題は――下半身だけしかない霊だ。
相変わらず、何を考えているのか分からない状態の奴は、朔夜くんから付かず離れず、一定の距離を保てったままで、歩みを止める様子はないし、私の威嚇も全く効いていない。
んー、謎だ。
害があるのか、無いのか……。
朔夜くんの生命エネルギーに、吸い寄せられているのかな?
朔夜くんの生命エネルギーは、若いだけもあり、力強くて、やる気に満ち溢れた陽の生命エネルギーである。
陽の生命エネルギーは、幽霊達にはとても眩しくて、うっかりと近寄ってしまうと弾かれてしまうので、近寄りがたいと思うのが普通なのだが、それが分かっていても、どうしょうもなく心惹かれ、切なくて堪らないと感じる霊もいる。
恋い焦がれるかのように、焦がれて、焦がれて、焦がれ続けて、その人に成り代わりたいと思ってしまうのだ。
因みに、陰の生命エネルギーを持つ者に、幽霊達――特に、地縛霊達は喜んで近付いて行く。
淋しい、辛い、悲しいという、自分勝手な思いを抱えたまま彷徨っている彼等は、人の弱みに付け入る隙を常に狙っている。
ちょっと押したら、届いてしまうような人物を見逃すはずがない。
だが、仲間になってくれる相手を手に入れれば一時は満足するのに、そう長くは続かない。
彼等はまた新たな仲間が欲しくなる。
陰の生命エネルギーは、地縛霊達にとって依存性の高い更にヤバい薬のようなものだ。
あー、もう。
幽霊の気持ちなんて、少しも分かりたくないのに、分かっちゃうんだな。これが……。
「……この辺りで、スピボしたいと思います」
来た道とは逆方向に歩いていた朔夜くんは、短い階段を降りてすぐの横の参道にある手水舎で、足を止めた。
比良神社の裏手であるここは住宅街から少し離れているために、スピリットボックスを使っても色々と問題ないはずだ。
ここで、ちょっぴり補足!
スピリットボックスは、住宅街だとその辺りを飛び交う様々な電波を拾ってしまうために、きちんと検証できないよ!
(トランシーバーとかラジオとかの音声が混じる)
後は、単純に使用音が煩いという難点もあるけど☆
朔夜くんは、トリフィールドの電源を消してズボンのポケットにしまうと、バッグの中からスピリットボックスを取り出した。
電源を入れると、ザザザザザザッというお馴染みの音が鳴り出す。
「こんばんはー、ツヴァイリングホラーチャンネルの朔夜です☆お話ししていただける方、近くにいらっしゃいませんか?」
スピリットボックスを手にした朔夜くんは、その場でゆっくりと360°回転していく。
『ザッ……ピッ…………よ』
起動音の合間に声が混じった。
「……よ?」
朔夜くんはコテンと首を傾げた。
その顔はあざとい!可愛すぎです!ヤバいです!!
――ザザザザザザッ。
『こんばんはー』
『え?マジ?ありえねー』
『ふふっ』
『いるよ』
少しすると、女性や男性の声が連続で入った。
「……ありがとうございます。ここにいらっしゃるのは女性と男性ですか?」
『きゃはは。◯◯さん、ヤッバー』
『……黙れ』
『おとこ』
『◯※$%#✕』
住宅街から少し離れているとはいえ、やはりラジオのような音声が混じってしまっているようだった。
しかし、朔夜くんは聞こえて来た一つ一つの音声をしっかりと聞き、自分の問い掛けに答えてくれた可能性の高い声に向って、冷静に話し続ける。
「『おとこ』と、答えてくださったのは男性の方ですね?」
『しらなーい』
『そう』
『しってる』
「今夜は、依頼を受けてここに来ているのですが、肝試しに訪れた人の肩を叩いたのは貴方ですか?」
『県内のニュースをお伝えいたします』
『しね』
『◯$#%$%』
『さあ?』
……ふぉぉ。反応すごっ。
『いるよ』『おとこ』『そう』『さあ?』
色んな声が混じってしまっていたが、朔夜くんの質問に答えているような声は、ずっと同じだった。
……ちゃんと答えてくれているんだ。
生スピリットボックスに夢中になっていた私は――この時スッカリと油断していた。
「その時に、うめき声も聞こえたそうなのですが、それも貴方ですか?」
朔夜くんがそう質問したのと同時に、周囲の空気が一変するまで、その異変に気付かずにいたのだから。
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