第17話 夜の神社②
「社殿に辿り着いたんですけど……何か、空気が……変わった?」
社殿に到着したと同時に、今まで笑顔だった朔夜くんの表情が急に強張った。
ブルッと一度だけ身体を震わせると、その場で360°回転しながら自分の周囲を撮り、ここに来るまでに通って来た道へと、手持ちカメラを固定していた。
「……今までは全然平気だったのに、ちょっと怖いっすね」
――幽霊になってから、視えるようになった私は、坂道を上り切って社殿が見え始めた辺りから、朔夜くんよりも先に周囲の空気が変わったことに気付いていた。
そして、朔夜くんに訪れた変化にも……。
急に白いモヤが立ち込め、それが晴れるや否や現れたソレは、両足の膝から下の部分しかない霊だった。
顔がないので、どんな表情をしているかは分からないが、少し離れた場所に立ち止まっているソレからは、朔夜くんの動向を探っているような気配を感じている。
チャコールグレーのスラックスに黒の革靴。
その服装と骨格からすると男性なのだろう。
「視聴者さんの友人の方によると、肩を叩かれたり、男性のようなうめき声が聞こえたらしいですけど……ここで過去に事件があったとか、聞いたことがないんすよね」
視聴者さんの友人が、遭遇したのも男性の霊だが……。
しかし、近くにいるソレは性別こそ同じものの、肩を叩く手もなければ、うめき声を上げる口もない。
朔夜くんが意を決して歩き始めると、一定の距離を保ったまま着いて来た。
……何がしたいのだろうか?
私は、ソレに対しての警戒心を強めた。
「んー……少し離れたところでスピボしてみますか。それまではトリフィールドを使用して行きます」
――コホン。
朔夜くんの代わりに説明しよう。
心霊系チャンネルの検証で、最早お馴染みのスピボこと【スピリットボックス】と、【トリフィールド】。
スピリットボックスとは――霊的な声が言葉を形成する可能性がある、特殊な高周波数を介することで、霊と会話ができるというアイテムである。
だが、ラジオの音声が紛れ込むこともあり、信憑性が高いとは言えないものの、的確な言葉や会話が成立することもある人気アイテムである。
そして、トリフィールドとは――『電磁波エネルギー』で形成されていると言われている霊の存在を数値化して現してくれる電磁波測定器なのである。
起動させると、カチカチカチという一定の測定音のようなものが聞こえるので、心霊好きならば説明が無くとも、『あ、もう使ってるのね』と一聴すれば分かる。
霊が近いと、ジジジジジ!とかビャーービャーーという、警告音のような物凄い音がなり、これまた心霊好きならばその音だけで、ある程度の数値が分かる。
そもそも電磁波が発生しているような場所や、トランシーバーなどの通信機にも反応するために、使う場所が限られてしまうという欠点もある。
また、【ばけた◯】という、光る色によって霊が近くにいるかどうかを教えてくれるお化け探知機や、スピリットボックスよりも素人が気軽にお手軽に霊と会話のできる【GHOST◯UBE】というアプリ等、色んなアイテムがある。
気になった方は、あくまでも自己責任での利用をお願いします。(コレ大事)
――因みに、私はGHOSTT◯BEを使ったことがあるのだけど……。
『今、後ろ』『憎い』『◯ろす』と連続で出た時は、マジで怖くて眠れなくなりました。
気になった方は、あくまでも自己責任での利用をお願いします。(大切なので二回目)
「では、早速トリフィールドを使っていきます」
朔夜くんが、トリフィールドを起動させた途端――ジジジとメーターの数値が反応した。
おぉ〜!本当に反応してる!
「何もない時の数値は0なんすけど……今は200まで上がって……3,000いや、マックス!?」
モニターに表示されている数値をアップで撮っている朔夜くんの背後から、そーっとトリフィールドを覗き込むと、その数値はビーーー!!っと、けたたましい音を立てながら一気に上昇した。
朔夜くんは瞳を見開いて、ガバッと勢いよく背後を振り返った。
……あ、すみません。多分私のせいです。
というか、私のせいです。
トリフィールドが気になりすぎて、朔夜くんの背後から覗き込んだだけじゃなく、パーソナルスペースの臨界も越えちゃったみたいです。
ファンとしては、はしたないことをしてしまったけれど、幽霊としては図らずも実験に協力できたと思います!テヘッ。
尚、『お前、神社の幽霊じゃないだろ!』というコメントはスルーしますので、あしからず。
「……あ、戻ったッスね。今の音って、相当ヤバい数値の時なんですよ。やっぱり何かあるんですかね……」
そう言いながら朔夜くんは歩き出した。
朔夜くんのパーソナルスペース外へと、一気に逃げた私は、ほんの少しだけいつもより離れたところを浮遊している。
朔夜くんの警戒心の上がったせいで、パーソナルスペースが広がったことと、不必要に近付いて怖がらせないため。
――そして、徐々に増えてきた奴らから朔夜くんを守るために。
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