第16話 夜の神社①
「皆さん、こんばんは。ツヴァイリングホラーチャンネルの朔夜デス☆今夜は視聴者さんからのご依頼で、地元の【
朔夜くんは、少しだけ瞳を細めて首を傾げた。
……ぐふっ。
小悪魔がおる。自分の顔の良さをよく知った上で、利用している小悪魔がおりまする。
カメラ目線で繰り出された小悪魔からの攻撃は、三脚カメラの少し後ろ――朔夜くんのパーソナルスペースである、正面から五メートルほど離れた位置をGETしていた私の胸に、見事に突き刺さった。
画面越しでも十分ヤバいのに、生の威力はそれはそれは凄まじいものだった。
朔夜くんのパーソナルスペースが、後数センチでも短かったなら、神過ぎて私は消滅してしまっていたかもしれない。
……イケメン怖い。(ガクガクブルブル)
「視聴者さんの情報によると、ご友人の方が夜の比良神社に肝試しで訪れた際に、誰もいない境内で肩を叩かれたり、男性のうめき声のようなものを聞かれたそうなのです。……ここって、地元では少し有名で、この辺りに住んでる子供なら一度は必ず訪れるような場所なんですよ。俺もコタローも勿論知ってて。心霊系の噂なんて今まで聞いたことないので、ちょっと驚いてますが……早速、検証していきたいと思います」
朔夜くんはそこまで話すと、三脚カメラの方へと歩き出したので、私は慌てて後退りながら距離を取った。
カメラの録画を止めて、何事もなかったように録画チェックを始めた朔夜くんに安堵した。
こ、腰が抜けて、動けないと思った……。
朔夜くんの美貌に幽霊が腰を抜かしたとか、間抜けすぎる。
いや、生身だろうが幽霊だろうが関係ない。それだけ朔夜くんは素敵なのです!
朔夜くんに不快な思いをさせないように、必死でパーソナルスペース守ったけどさ。
「――よし、オッケー。検証してる間に、定点撮影もしとくか」
……朔夜くんが視えない人で、本当に良かった。
そうでなければ、ワンピース姿で尻もちをついた状態で、バタバタと手足を必死に動かして、後退りしているなんて、凄まじくあられもない姿を晒すことになっていたのだ。
良かった。……本当に良かった。
未だに心臓バクバクな
***
「では、ここから手持ちカメラに切り替えて、中に入りたいと思います」
手持ちカメラに向かってそう言った朔夜くんは、カメラを外側に向けて歩き出した。
「失礼します」
鳥居の前で軽く一礼をする朔夜くんに合わせて、私も同じように一礼した。
鳥居から内側は、神様達の領域であるとされている。敬意を持って一礼してからくぐり、通路の真ん中は、神様の通り道なので歩かないこと。
境内を出る時もまた感謝の気持ちを込めて、社殿に向き直って一礼する。――というのが、一般的な参拝のルールである。
彼等は真面目なので、そうしたルールを守りながら撮影している。
……こういうところも好きなんだよね。
幽霊相手にだって紳士的だし。
『女性』扱いしてくれるのが、キュンポイントです!
「取り敢えず、グルッと一周します。……てか、懐かしいな。マジで全然変わってない」
鳥居をくぐった朔夜くんは、坂道を上りながら、懐しそうな顔で、キョロキョロと辺りを見渡している。
この神社は鳥居をくぐると、直ぐにそこそこに急な上り坂があり、上り切ったその先に社殿があるようだ。
「ここって、本当に小さい神社なんですよ。それなのに、何でこの辺りに住んでる子供達が、一度は必ず来るほどに有名かと言うと、毎年秋にお祭りがあるんすよ。鳥居の外とか、社殿に続く坂道とかに、小さな屋台がズラーッて並んでて……。親にお小遣い貰って、友達とお祭りに行くのが、本当に楽しみだったな。こんな急な坂に屋台が並ぶんすよ?信じられないっすよね?」
そう言って笑う朔夜くんは、いつもより幼く見えた。その表情と言葉から、ここが大切な思い出の場所であったことが伺える。
朔夜くんとコタローくんは、地元でも可愛いくて有名だったろうな……。
良いなぁ。……見たかったなぁ。
可愛い二人にお祭りで会ってたら、お姉さんは絶対に貢いでた自信がある。
水ヨーヨー?りんご飴?綿飴?何でも買ってあげちゃうぞ。
「……だから、視聴者さんからこの依頼が来た時は、ぶっちゃけ信じられなかったんすけど……【夜の神社】ならあるな、って今はそう思ってます」
【夜の神社】――心霊好きな人ならば、その言葉の持つ意味が分かるだろう。
神様だからといって、二十四時間、年中無休で働き続けているわけではなく、夜間は人間と同じく眠りにつく。
神様が休息している夜の神社で騒ぐなんて以ての外で、下手すれば祟られることもあるという。
朔夜くんの言う【夜の神社】とは、そのことではなく、神様が眠りについている時間――神様の加護が得られない時間帯には、魑魅魍魎が跋扈するような危険な場所であると言われていることを指している。
特に、昼と夜の境界が最も曖昧になる、午後4時から6時の間は『逢魔が時』と呼ばれ、魔の影響を最も受けやすいことから、避けるべき時間だとされている。
現在の時刻は二十一時過ぎなので、逢魔が時ではない。
本来ならば、その時間に来るのが趣旨に一番適しているのだが、自分がいない時には絶対に駄目だと、コタローくんが止めたからだ。
朔夜くんはこのことにも不満そうだったけれど、コタローくんが止めてくれて本当に良かったと、今は心からそう思う。
――朔夜くんが社殿に着いたと同時にソレは現れた。
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