第15話 視聴者さんからの依頼
「……うわっ、懐かしいな。昔に来た時のまんまじゃん」
朔夜くんは感慨深げな表情で、大きな鳥居を見上げながらそう呟いた。
朔夜くんとコタローくんの家から、徒歩十分ほどにある神社が、今夜の撮影場所である
「ここが心霊スポット……ねえ」
――――ことの発端は、日中に届いた一通のDMだった。
*****
「………朔夜、DMきた」
「んー?誰から?」
「視聴者さん」
「へえー、何て?」
自室の机で動画の編集作業をしていた朔夜くんは、ヘッドホンを頭部からずらして首にかけると、ソファの方で、同じく動画編集していたコタローくんの方を振り返った。
「……」
「……読めし」
仕事用のスマホを無言で差し出してきたコタローくんから、スマホを受け取った朔夜くんは苦笑いを浮かべた。
「マイペースが過ぎるだろ」
そして、長文を読み上げる気のないコタローくんの代わりに、視聴者さんから送られてきたというDMを声に出して読み上げ始める。
「ま、良いけどな。ええーと、何々……?『はじめまして、こんにちは。私は、ツヴァイリングホラーチャンネルの配信を何よりも心待ちにしている視聴者の内の一人です』――おお、ありがとうございます!」
DMを読んでいるだけなのに、まるで目の前にその人がいるかのように律儀に返事をする朔夜くんと、そんな朔夜くんに合わせて、頭を下げているコタローくんが日本一可愛い。
「『最近、朔夜くんとコタローくんと同じ地元だという友達から、心霊体験話を聞きました。お二人は【
「ん、近所の小さな神社」
「あそこって、何か噂あったか?」
「聞いたことない」
「だよなぁ……。何かあるって知ってたら、真っ先に行ってるもんな」
「ん」
二人揃って首を傾げる姿もまた世界一可愛いし、動きがシンクロするところなんかは宇宙一可愛い。
「続けるぞ。――『夜の比良神社に、肝試しで訪れた友達は、誰もいない境内で肩を叩かれたり、男性のうめき声のようなものを聞いたそうなのです。もしよろしければ、ツヴァイリングホラーチャンネルで検証をお願いします』……だってさ」
「……どうする?」
「んー…………どうすっかなー」
朔夜くんはスマホをコタローくんに返すと、作業台近くのスケジュール帳を手に取った。
「コタローの方は、進捗どうよ」
「ん、まだ少し終わらない」
「だよなぁ……。コタローのは今日中に完成させないとマズいしな」
スケジュール帳をペラペラと捲りながらそう言うと、コタローくんは困ったような顔をした。
「……無念」
「無念って何だよ」
「夜の神社、危ない」
コタローくんには、朔夜くんが次に言い出すことが分かっていたのかもしれない。
釘を刺すようにハッキリ言うと、朔夜くんが苦笑いした。
「……分かってる。先生にもよく言われるし。でもスケジュール的に、空いてるのは今夜俺だけで、後はいつ行けるか分かんないんだよな。それに、何かあったのか気になって仕方ないんだ」
「……」
「心配そうな顔すんなって。無理はしないし、近所なんだから。何かあったら走って逃げてくるさ」
自分が一緒に行けないことをコタローくんは余程心配しているようで、先生特製グッズを幾つも渡そうとしてきたが、全部朔夜くんに却下されていた。
「……おい。またお蔵入りにする気か」
「やぶさかでない」
「そこさ、せめて普通は『やむを得ない』じゃねえの!?最初からお蔵入り決定してるとこなんて行く意味ないだろ!」
――ボケとツッコミのような押し問答の末。
先生の歌なるモノをダウンロードしていくことで、漸く解決した。
ダウンロード後、苦虫を噛み潰したような顔でスマホを見ていた朔夜くんの顔が印象的であった。
因みに――『家政◯は見た!』状態で、ベランダ窓の端っこから、コッソリと私が室内を覗いていたことは、余談である。ふふふっ。
*****
――そして現在。
朔夜くんは、オープニングムービーの撮影準備に取り掛かっていた。
大きな鳥居を背にして撮るようで、ササッと手際良く組み立てた三脚を鳥居の前に置いた朔夜くんは、細かな位置の調整をしている。
ここで、突然のファッションチェーーーーック!
今夜の朔夜くんは、神社というのを考慮してなのか、黒のテーラードジャケットに、オリーブカラーのチノパンを合わせ、インナーには無地の白T。白のスニーカーという、シンプルな大人カジュアルの装いである。
これだけでは、シンプルにまとまりすぎて、つまらなくなりがちだが、お洒落上級者の朔夜くんは、アクセントとなるアクセサリーもしっかり付けている。
ジャケットの袖を少し折り返してシルバーのバングルを見せるなど、細かいところまで気を使っているところが、実に朔夜くんらしい。
パチパチパチ。
――と、私が勝手にファッションチェックしている間に、準備が終わったようなので、ちょっと移動したいと思いまーす!
万が一にでも、カメラに映り込んでしまったらマズイので距離を取っていたのであります。
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