第14話 パーソナルスペースには個人差があります。
私は、もう二度とぶるんぶるんには屈しない……!
一般道路だろうが、高速道路だろうがどんとこい!
カーコ様の地獄のブートキャンプを乗り越えた私に、怖いものなど何もない!!
――――さて。
本日の移動手段は、徒歩です。
徒歩……。トホホ……?
思いがけない展開に、一瞬だけチベットスナギツネのような顔になりかけたけれど、徒歩――うん、全然悪くない。
因みに、今夜は近所での撮影ということで、朔夜くん一人だけである。
私が視えるコタローくんがいないので、朔夜くんの直ぐ近くを浮遊してみたりと、いつもより大胆に行動しちゃっています。きゃっ。
現在は、朔夜くんの右隣から3.5メートルほど離れたところにいる。
推しとの距離として、今の状態が如何なものなのかは勿論、重々承知している。
重々承知した上で、私は敢えて『実験』をしているのだ。
幽霊を視ることはできないけど、気配を感じることはできる朔夜くん。
ただ日常生活を送るだけならば支障はないと思われるが、朔夜くんは『幽霊』を仕事にしている人だ。
……ぶっちゃけ、視えるコタローくんが側にいれば危険は回避できるし、最強の御守りをくれる先生だっている。
なりたてほやほやな上に、自分のことが何も分からない幽霊にできることなんて、ないかもしれないけれど……いざという時に守れる位置にいたいのだ。
生身の人間には歯が立たなくても、同じ幽霊同士なら話は違ってくるはずだから。
あーー、やっぱり筋肉は大事かもしれない。
帰ったらカーコ様隊長から訓練…………は、止めとこう。無謀な行動は身を滅ぼすだけだ……。
ブルブルブルブル。
そんなこんなで、朔夜くんへの数々の実験の結果。
隣にいるならば3.5メートル離れた位置が、最適だと判明したのであーーる!
これはパーソナルスペースでいうところの『公衆距離』に該当する。
3.5メートル以上離れていれば問題ないのだが、それ以内に入ると、朔夜くんが急にそわそわと周囲を気にし始めるのだ。
また、興味深い事実も判明した。
左右と背後は3.5メートル以上離れれば良いのに対して、正面は5メートル以上離れなければならないのだ。(正面の方がパーソナルスペースが広い)
一般的に、女性のパーソナルスペースが円形なのに対して、男性のは細長い楕円形をしていて、女性よりもパーソナルスペースが広いのだと、昔々にどこかで聞いたことがあったが、まさか推しで実体験することになるとは思いも寄らなかった。
視えないことを良いことに、前後左右だけでなく、上下を含め、余すことなく実験したヨ☆
パリピうぇ~い感バリバリで、動画もバッチコイな社交的な朔夜くんは、パーソナルスペースの広さから察するに、実は慎重で警戒心が強いのだろう。
もしかしたら、心から気を許した相手しか近付かせない可能性もある。
……だけど、それで良いと思うんだ。
朔夜くんとコタローくんの周りは、綺麗な人ばかりじゃないはずだ。
下心や悪意を持った人が近付いてきた時に、自分の身を一番に守れるのは警戒心だと思うから。
――因みに、知人と呼ぶのに相応しい関係の人との距離を『社会的距離』(1.2〜3.5メートル)というのだけど、私がその距離に入ると朔夜くんは警戒の度合いを強めて、最低限の動きしかしなくなった。何かあった時に、逃げること最優先にした故の行動だったと思う。
そして、恋人や家族などといった極めて親しい関係の一人が許される距離である『密接距離』(45センチ以下)では、朔夜くんは顔を引き攣らせてスマホを握り締めていた。
電話の相手が、コタローくんならまだ救いはあるけれど、先生だったりした時には一環の終わりである。
怯える朔夜くんはとても可愛いかったけれど、無闇矢鱈に推しを怖がらせようとは思わないから……電話しないで………!!
もう二度とその距離には近寄らないから!!
――――と、そんなこんなで、今の距離におさまったのだった。
私的にも距離が近過ぎると落ち着かないので、Win Winである(?)。
そんな実験をしている内に、あっという間に今夜の撮影場所に着いてしまった。
近所というだけあって、十分ほどの短い距離だった。私は間に実験をしていたので、尚更短く感じたのだけれど。
大好きな推し様との夢のお散歩としては、すごく短いものだった。
だけど、撮影はまだこれからだし、何だったら帰り道の時間も一緒だし、家にも憑いて行っちゃうしねー。えへへ。
今日は、朔夜くんの麗しい姿をこの目に焼き付けつつ、撮影が無事に終わるように見守りたいと思います!!
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