第9話 大型廃墟ホテルに憑いて行きます②
「ここが受付の中ですが、恐らく当時のまま……なのか、顧客名簿?みたいなのとか、領収証が散乱してますね」
朔夜くんの手持ちカメラが、床に散らばっている書類等の残骸を捉えていく。
「部屋の鍵は誰かに盗られてしまったのか、欠けてたりしますけど、ほぼほぼ揃ってるようです。長方形のプラスチックみたいな大きなキーホルダーに、部屋番が書いてある古いタイプの鍵っすね。このホテルの歴史を感じます」
ツヴァイリングホラーチャンネルは、ただ心霊スポットを回るだけでなく、幽霊が視えない人にも、幽霊は『居る』のだということを伝えるために、時間をかけてしっかりと撮影している。
何故心霊スポットと呼ばれるようになったのか。
実際に幽霊がいる場所なのか、否か。
現場の状況や時代背景からの朔夜くんの考察や解説は、ミステリー作品のような聞き応えがあるだけでなく、視えるコタローくんがいるので、どんなに有名な心霊スポットであっても、居ない時は居ないとぶっちゃけてくれるところにも好感が持てる。
自撮りもしてはいるが、基本的には進行方向の画角しか映さない撮影手法のために、角を曲がる瞬間や、扉を開ける瞬間に、何かが映り込んでしまっていたらと思うと、ゾクゾクして堪らない。まるでその場にいるような臨場感は癖になる。
更には、二人はカメラやライトにも拘りがあるために、画質が良いところも大きなポイントだ。
……主観ではあるが、無闇矢鱈に騒ぐだけのチャンネルは、不鮮明な画像を配信しているところが多く、視えない側であった私には何が怖いのか分からないことが多々あった。
そうすることによって、敢えて怖さを演出しているのかもしれないが、置いてけぼり感で冷めてしまうのだ。
それに比べて、朔夜くんとコタローくんのチャンネルでは、高画像、高クオリティー!
検証のための機器も徐々に新調してくれるので、毎回新鮮味がある。
しかも、ヤラセや加工は一切なし!
疑われやすいコタローくんの証言を科学的に立証しようとするところも良い。
――つまり、何が言いたいかというと…………。
私は、二人の何もかもが大好きなのである!!
(ここが一番大事)
「受付とかロビー見てさ、俺は嫌な感じしないけど、コタローはどうなん?」
「ん、ここ平気」
カメラを構えたまま振り返った朔夜くんに、コタローくんは表情を変えることなく頷いた。
「そっか。じゃあ一、受付後方に行くか」
「ん」
歩き始めた二人の後ろを、私は抜き足差し足忍び足で憑いて行く。
「あー、裏手のちょっと後方には従業員用の休憩室らしきものがありますね。畳はボロボロだけど、窓ガラスは残っていて……。ああ、急須と湯呑みがテーブルの上に残されたままですね。周りには座布団と、従業員の方の制服かな?作務衣があります。テレビは、ダイヤル式……?って、見たことないな」
「ん、三十年前でも結構珍しかったと思う。当時は、箱型の大きなブラウン管テレビが流行ってたはずだから」
「おお、コタローがめっちゃ見てるし、喋ってる。お前、こういう機械物とか好きだもんな」
「ん」
周囲が暗かろうと、コタローくんの輝く瞳は、私にはバッチリ見えてます☆キラーン。
はぁ、可愛い……。マジ可愛い。
大好きな物に夢中になっている推し可愛い。
天使かな。降臨しちゃったのかな?
さあーて、ここで突然のファッションチェーーーック!!
本日の朔夜くんは、黒地に白の細ボーダー柄のつなぎ服を腰で巻き、上半身は黒色のシンプルな長袖Tシャツ。黒のキャップと、レースアップのブーツと――全身黒色のシンプルなアイテムで纏めているのにも拘らず、つまらないファッションに見えないのは、髪型や髪色、ネックレスやピアス、指輪などのアクセント使いが上手いからだろう。
はあ、カジュアルな装いの朔夜くんも眼福です……。
コタローくんと、色違いコーデをしたかったようだが――カーキー色の細ボーダーつなぎ服の下から除く『やればできる子』の文字。
私的には、コタローくんらしくて良いと思うのだけど、朔夜くん的にはアウトらしい。
『俺の用意した白Tはそれじゃねぇぇ!』と、項垂れる朔夜くんも、落ち込む朔夜くんをフォローすることなく、全く気にしていない様子のコタローくんも、いつも通りで癒やされた。
こんなにも可愛いくて素敵な推しの姿を生で見られるなんて、幸せ過ぎて怖くなる。
スマホ越しでも格好良いのに、生はヤバい。
顔なんてモデルか!!ってくらいに小さいのに、手足も長いし、身長も高いなんて、目の前で見なければ実感できない。
はぁ……ヤバい。推しと同じ空気を吸っている(?)なんて、最高のご褒美だ。
一つ我儘をいえば、昨日撮影していた動画や、今日の撮影動画を編集した状態で見たい。
二人が頑張って編集した動画は、それだけで愛おしいからだ。
必要な時に使えないスマホでも、それくらいの望みは叶うよね?
家(朔夜くんとコタローくんとの)に帰ったら、早速試してみようっと。
「……なあ、コタロー」
「ん?」
「三階まで回って来たのに、今まで何の現象も起こらないって……どういうことだと思う?結構、ここの噂あったよな?」
「んー」
――はい。
その疑問は、私がお答えしましよう。
生前は何も視えなかったはずの私。
幽霊になった今は、同じ立ち位置に当たるのか、今まで視えていなかったはずのモノが、ごく当たり前に視えていたりする。
現在、非常階段を上って四階を目指している二人の身に、何が起こっていたのかは、リアルタイムでバッチリ把握済みなのである。
(電気の通っていない廃墟の移動は、非常階段が一般的ダヨ!!)
心霊スポットとして有名なだけあって、一階ロビーからちゃんとソレは居た。
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