第7話 推し活1日目スタートです②

心霊スポットにおいて、幽霊よりも怖いのが人間である。 


普段、人間が立ち寄らない場所は、静けさを好む幽霊だけでなく、ホームレスの住処となったり、犯罪者の隠れ家や取り引きなどに使われることもあるという。


幽霊に取り憑かれたりすれば、霊障が心身に影響を及ぼすことはあるけれど……。

『刃物を持った幽霊』と、『刃物を持った人間』――実害があるのはどちらか明白だろう。

刃物を持った人間に襲われれば、死ぬことがあるのだから。


世の中には、初対面の相手にも悪意を持って攻撃してくる者がいるということを忘れてはならない。

犯罪者が身を潜めている可能性もある心霊スポットは、おもしろ可笑しい場所ではなく、常に危険が付き纏う場所なのだという意識が必要なのだ。


肝試しの後に、神隠しのように消えてしまった友達。

その友達が、実は事件に巻き込まれてた。――なんて、ケースも実際にあるとか、ないとか。


遊び半分で心霊スポットに訪れると……その後の人生変えちゃうかもね?(怖い声で)


因みに、例え廃墟であろうとも土地の所有者がいるのが当たり前なので、建物の中に入るには許可が必要です。

住居不侵入は勿論。落書き、破壊行為なども立派な犯罪ですからね?捕まるよ?


中には無許可の人もいるみたいですが……。

ツヴァイリングホラーチャンネルは、きちんと許可を取って撮影をしています。


犯罪、ダメ、絶対!!


――と、大切な事を話し終えたので、本題に戻りましょう。



「……コタロー、どうかしたか?」


準備の手を止めて、ジッと廃墟を見つめるコタローくんに、朔夜くんが気付いた。


「ここ、いる」

「『いる』って…………どっち?」

「この距離で、人間の気配なんて分かんない」


廃墟から朔夜くんへと視線を戻したコタローくんが首を傾げる。


「……だよなぁ……」

朔夜くんはチラリと廃墟ホテルを見た。


「両方の対策するとして、それってさあ、ヤバいヤツ?それともヤバくないヤツ?」

「ヤバい奴」

「……まーじかぁ。でも、コタローが言うんだから間違いないよな」

「ん。だから必要」


コタローくんはそう言うと、車のトランクの両端に吊るしてあった、雫型の水晶のようなものを取り外した。

その内の一つを自分の胸ポケットに入れて、もう一つを朔夜くんに渡す。


「持ってて」

「うへぇ……」

朔夜くんはそれを二本の指で嫌そうに摘んだ。


「……朔夜?」

「あー、もう!分かってるって!!」


暫くの間、コタローくんと『御守り』の間で視線を彷徨わせた朔夜くんは、諦めたように少し乱暴に胸ポケットに御守りを突っ込んだ。

そして、その直後にブルリと全身を振るわせた。


……どうしたんだろう? と、疑問に思った私だったが、幽霊になったからなのかは分からないか、御守りを身に付けた朔夜くんを纏う空気が、変化したことに気づいた。


「うわぁ……、何かよく分からないけど、相変わらずゾクゾクする……」

「ん、オッケー」

青褪める朔夜くんの背後を眺めてから、大きく頷くコタローくん。


ソレ、良いの!?

私は陰ながら突っ込まざるを得なかった。


何故ならば、幽霊の私には朔夜くんとコタローくんの背後――というよりも、背後からベターッと全身に纏わりつくようなな結界が見えてしまったからだ。

しかも、それだけでなく……。



……ひっ!


朔夜くんの側を揺蕩っていたオーブの型をした浮遊霊が、粘着質な結界から伸びた手のような形をした黒い影に絡め取られ、ギリギリと締め上げられ――パーンと粉々に砕けて消滅してしまう光景もバッチリ見えてしまった。


まるで嫉妬深い恋人の生霊の如き結界……!

……まあ、……うん。

アレなら大丈夫、かなぁ。(遠い目)


私は考えること自体を放棄した。


世の中には触れてはいけないモノがある。

二人の御守りもまたその内の一つである。


この場において、コタローくんと朔夜くんの身の安全が、第一優先である。私とてそのことに異論はない。

……無差別に攻撃しているのは問題だが、あれほどに強力な護りならば、二人の役に立つ上に、確実に危険を回避できる。

それほどの力を込められた『御守り』だ。


後はアレの射程距離に、私が絶対に入らないようすれば良いだけの話なのである。


『パーン』怖い。(ブルブルブル……)



こうして、推し活一日目がスタートした。


早くも前途多難な予感だらけだけど……(泣)

推しのために頑張るぞーー!!おー!!!

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