第6話 推し活1日目スタートです!①

「みばばば、こ、ぶぁああ、ただぶわぁ、ぶぁぶびぶわぁごんなじょぶぁびで、ぶるん」

訳:(皆様こんばんは。只今私はこんな状態です)


「どぶぉぉおびでぇ、ごんなごどぉぉおになっだぁがどぉぉぶるんぶるん」

訳:(どうしてこんなことになったかというと)


「あ、じだぶぁんぶぁぁぁ!!」

訳:(あ、舌噛んだ!!)


♪♪♪♪♪♪少々お待ち下さいませ♪♪♪♪♪♪



大変お見苦しいところをお見せいたしました。


外側の私は、まともに話せる状況ではないようですので、僭越ながら……内側の私が、変わりに話を続けさせていただきたいと思います。……では。



昨日未明から、大好きな推し達とのドッキドキ♡な、一つ屋根の上下生活を始めた『ひなた』二十七歳!


三羽のカラス達との熾烈な縄張り争いの果てに、見事に屋根の上を支配権GET♡

そんなカラス達も今では私の大切な部下デス♡


朔夜くんの寝込みを襲おうとした生霊が、昼間にも拘らず四体もやって来たから、カラス達と一緒にみーんな返り討ちにしちゃった♡


これから暫く生活を共にする三羽のカラス達には、名前を付けたんだ〜♡

これから一緒この家を守るんだもんネ☆ 


嘴の先が口紅を付けたように赤いのが『カーコ』でー、クルンとしたアホ毛があるのが『カースケ』。眉毛みたいに見えるフサフサの毛が凛々しい『カンザブロウ』!因みに、みんなオス♂♡



高所恐怖症は大丈夫なのか、って?


……ああ。

そんな時代もありましたねぇ……(遠い目)


高所恐怖症の理由は、ある人もない人もいると思うけど――私の場合は、高い所から下を見下ろすと、落ちた時の事を瞬時に想像しただけでなく、吸い込まれそうになるからなのだと思い出した。


自殺願望なんてないのに、身体が勝手に暴走して、その通りにしてしまうようながある。

それ故に、身体が勝手に暴走するのを防ぐために、高い場所に近付かせないようにするために、心が必死に恐怖で繋ぎ止めているのだ。


それを思い出すきっかけになったのは、私の自業自得で起きた『風船幽霊ぶるんぶるん事故』である。


……あれに比べたら高い所なんてと、恐る恐る屋根の上に登った私は、落ちそうなくらいにギリギリの場所に立ってみた。


案の定、地面に吸い込まれる感覚が湧き上がってきた。心はざわざわとして落ち着かないのに、身体はふらりと前に踏み出そうとする。

それならば……と、私は敢えて自分の身体の欲求に従ってみた。

落ちそうなギリギリの所に立っていた私は、勿論地面に向かって一直線に急降下した。


だが、幽霊初心者でも幽霊は幽霊なので、地面に身体を強く打ち付けたとしても、死んだりはしなかった。

すると、この後からは、吸い込まれるような感覚も、身体が勝手に暴走してしまうような予感も全て消え去ってしまった。


死なないことが前提の荒療治である。 

みんなは絶対に試しちゃダメだぞ♡



――それよりも今、この世で一番怖いことは、自分ではどうしようもない不測の事態に陥った時だと気付いた。


誰ですか?『高所恐怖症は治ったから大丈夫』と自信満々だったのは。………………………私だよ!


現在、私は上下左右、天と地も分からないほどに、グルングルンと高速回転されたり、急転直下を強いられていたりする。

それもこれも全て私の自業自得が引き起こしたことである。



心霊スポットに向かう朔夜とコタローくんに憑いて行こうとした私は、昨日の同じ状況なら大丈夫だろうと高を括って、碌な対策も取らずに実行した。


その結果がコレである。


……高速道路はヤバかった。


普通の道路でもキツいのに、スピードが出たら更にヤバくなるわけで………………。

私って、本当馬鹿……。


諦めて現実逃避をしてみたけど、どうにもなりませーーーん!!


たーすーけーてー!!



***********


「……私、無事?」

グルングルンとされまくったせいで、止まった後もまだ自分の身体が回転されているような感覚がある。


コタローくんに視られないように、フラフラの身体をどうにかこうにか動かして、建物の陰に身を潜めた私は暫くの間、放心していた。


チラリと朔夜くんとコタローくんを見ると、二人は手慣れた手付きで機材を組み立てていた。


ふぉぉお!

これから撮影が始まるのだと思うと、わくわくして来た。しかも、生の現場を見れちゃうなんて、どんなご褒美だ。


絶対に邪魔しないように、ひっそり憑いて行こーっと♪


――その時。ふと刺すように鋭い誰かの視線を感じた。


『コタローくんに見つかった!?』と身構えたものの、そのコタローくんは朔夜くんと会話中で、私の方は見ていない。


違うの?だったら、一体誰が……?


不思議に思いながら首を傾げていると、コタローくんの視線が、いつの間に朔夜くんでも、手元の機材でもなく、別な場所に向けられていることに気付いた。


コタローくんの視線の先を追うと、そこにあったのは、五階建ての大型廃墟ホテルだった。

そう。これから二人が撮影に向かう場所である。



「えっ……?」


その廃墟ホテルの一角。

がこちらを見ていた。

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