第4話 推し活始めます!

私はどうして死んだのか?

どんな未練を残していたのか?


何故か、本当に何故なのか分からないけど、幽霊になった私のワンピースのポケットには、生前に使用していたスマホが入っていた。

けれど、個人情報が含まれているアプリなどには、身に覚えのない暗証番号が設定されていて……救世主に成り得たスマホは、無用の長物に成り果てた。


詰んだ……と思った。

このまま悪霊コースへ真っ逆さまか……と、諦めかけた。

そんな時に、スマホの中にとある人物が写ったデータをたまたま見つけたのと同時に、奇跡的なことが起こった。

何と、私のスマホの中に映っている人物――生前の最推しだった心霊系You◯uberの朔夜くんとコタローくんが目の前に現れたのだ。



え?……ええ!?

偽者……じゃなくて、似てるだけの人!?


思わずスマホと画像と目の前で動く人物達を見比べた。


「……ここ、かなりヤバかったな」

「んー、違うと思う」

「違う?あんな悲鳴が聞こえてきたのにかよ!!」

「ん、こことは関係ない別者」

「別者!?その方が……ヤバくね?」

「どうだろ」


…………ああ。本物だわ、これ。

You◯ubeで見た顔と声の同じな上に、この独特の会話のやり取り…………尊い。

私、今日死ぬのかな……。(もう死んでいる)

もう死んでも良い。(既に死んでいる)


私はいつの間にか、涙を流しながら二人に向かって合掌していた。


……っと、我を忘れてしまっていたが、二人の会話から察するに、私が現れた場所の真下にあったこの廃墟で撮影をしていたようだ。


いつか会いたいと願っていたけれど、死んでからこんな奇跡が起こるなんて思ってもみなかった。

死んで良かった…………って、良くないわ!!

落ち着け、私。

ヤバい。最推しは尊すぎて自我が保てなくなる。

嬉し尊すぎて昇天したくなる……!

こんな気持ちになるということは、今なら昇天できるんじゃ……?


私はそっと目を閉じた。

そして、朔夜くんとコタローくんのことを思う。

それだけで、胸がワクワクして、ドキドキして、ポカポカと温かい気持ちになる。


……ああ。短い人生だったけど、幸せだったな。


すると、私の目の前に眩い光が差し込んできた。

私はその光の中に向かって右足を踏み出した。


……また来世でも会えますように。


そう来世への思いを馳せたと同時に、私の身体が光に包み込まれた。

段々と私の身体の輪郭が崩れていき、光と同化していくのが分かる。

昇天する時はこんなにも神秘的な状態になるのかと、心の中は清々しさでいっぱいだった。

もう、私の中に未練は何もない。


ありがとう。最推し。

ありがとう。記憶がないせいで、名前も顔も思い出すら分からない家族へ。

みんな、みんな、さようなら。

私、成仏します!








―――――――――なんて、簡単に上手くはいかないものです……。


確かに、朔夜くんとコタローくんを見ているだけで、とても幸せな気持ちになってはいるけれど、成仏できるかと聞かれたら、何処か寂しさと物足りなさを感じるから、分からないと答えるだろう。

これが『未練』というやつなのかもしれない。


でも、二人に出会えたお陰で、私がやるべき今後の方向性が見えた気がする。

彼等ならきっと私を満足せてくれる。

私をきちんと成仏させてくれる。

そう、本能がそう告げていた。


ここで二人に出会えたのは、神様が私にくれた最初で最後の慈悲なのかもしれない。


大好きな二人を推して、推して、推しまくって。

推し活を全うすることかできたなら、きっと私は成仏できるだろう。

これはチャンスだ。それならば、心ゆくまで推しまくります!


……まあ。万が一、私が悪霊になってしまったとしても、コタローくんの知り合いに、某有名な除霊師さんがいる。

コタローくんが大好きで、大好きで、大好きで堪らないは、私みたいな幽霊になりたての初心者ペーペーなんて、埃を払うような軽さで、木っ端微塵に私を退治してくれることだろう。


……うーん。木っ端微塵とか考えるだけで恐ろしい。くれぐれも、お手柔らかにお願いします。(切実)


――ということで。

私、思いがけずに幽霊になっちゃいましたが、身軽な自由さを活かして、今夜から推し活始めます!!

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