第34話 命の天秤
身長50メートル、体重7万5000トン。
稀に地上界に生息しているが、地獄の火山に大抵住んでいる大型の鳥の一種、雑食性であり、鬼ですら捕食対象になる。
通常、鬼を捕食することはほとんどなく、山の魔物を食って生活している。無論、鬼による討伐例もいくつか存在するが、人間が1人で討伐したという例は存在しない。
「ちょちょちょジオニス!」
「ジオニス様だ、言葉に気をつけろ」
「あ、あんなのを殺せと?! あれ怪物じゃなくてもはや怪獣じゃないの! あんなの巨人でもない限り倒せないわよ!!」
驚きに慌てるローゼスに対し、ジオニスは冷静にコーヒーを入れ直していた。
「あの程度のデカブツを殺せずして何が殺戮令嬢だ、お前はあれを平気で殺せるようにならなければならない。お前は今まで何メートルくらいの奴を殺してきた?」
「今まで10メートルくらいなら殺してきましたわ……」
「10メートル倒した程度で殺戮令嬢か、私なら小指でチョチョイのチョイ次郎だ」
「10メートルがチョチョイのチョイ次郎?!」
ジオニスはコーヒーを飲み干すと、ローゼスに水筒と小さな小包を渡した。
「ほれ、水筒と三日分の食料だ。猶予は三日、その間に殺せぬのなら、世界一の令嬢は諦めることだな」
「ああもういいですわよ! やってやろうじゃありませんの!」
ヤケクソで小包と水筒を受け取り、ローゼスは山へ向かった。
「……あいつはどっちを取るかな」
修行と言われ、どんな特訓をするのかと思いきや、あんな馬鹿でかい怪鳥を殺せと言われたローゼスはもうどうとでもなれと思い、小包の中身さえ確認せずにジオニスと別れてしまったので、今更ながら小包の中を確認することにした。
麻ヒモで結ばれた小包を開けると、中にはおにぎりが3つ入っているだけであった。
「はあああああああああああああ?!??!?!」
三日間をこれだけで過ごせというのかと余計ジオニスを恨む。
「なんなんですの?! 三日間ならもっと飯よこしなさいよ! あのパツキン軍曹ぉお!」
ローゼスがやけになってそこら辺の木をローゼンクロイツで真っ二つに切断すると木陰よりも大きな影がローゼスを覆った。
それは、バルドリアスの顔面だった。
「……あ、どうも」
次の瞬間、バルドリアスの叫び声がローゼスの鼓膜に響き渡り、彼女はその衝撃に吹き飛ばされた。
「鳥ごときがぁ!」
ローゼスは飛び上がり、ローゼンクロイツを剣形態に変え、バルドリアスの頸に突き刺そうとするが、その強固な皮膚の前に弾かれてしまい、ローゼスは起き上がったバルドリアスから落下してしまう。
ローゼスは着地するが、すぐにバルドリアスがローゼスを踏み潰そうと、足を踏み下ろし、彼女はすぐに回避する。バルドリアスは嘴でローゼスを突き刺そうとする。その攻撃は地面に食い込み、1つでも受けてしまえばローゼスの体はただの肉片と貸してしまうであろう。
ローゼスはローゼンクロイツを鞭形態にかえ、バルドリアスの嘴に巻き付けた、バルドリアスの脅威的な力の前に、ローゼスは引っ張り上げることもできず、そのまま宙に吊り上げられたが、彼女はターザンの如く、バルドリアスの腹部へ向かい、ローゼンクロイツをバルドリアスの嘴から外し、すぐに剣形態に変化させ、腹部に突き刺した。ローゼンクロイツは刺さり、血が吹き出す。
だが、バルドリアスの致命傷には至らなかったのか、すぐに振り落とされてしまい、ローゼスはすぐに離れた。
さらにローゼスは間合いをとりつつ、バルドリアスの攻撃の隙を狙い、足首を素早く切り裂き、バルドリアスの機動力を落とす。
ローゼスはヒットアンドアウェイ、いわゆる一撃離脱戦法にする事で、バルドリアスにダメージを蓄積させる作戦に出たのだ。
「このまま失血死させてやりますわ!」
すると、バルドリアスはローゼスに向けて、喉を黄色く発光させ、口から黄土色の謎の液体を吐き出した。その巨体からすれば、ただ勢いのある嘔吐でしかないが、ローゼスからすれば巨大な水風船の爆撃である。
ローゼスはあの液体を浴びるのは危険であると考え、岩陰に隠れる。液体を浴びた岩は煙を出しながら溶け出していき、強力な胃酸を吐きただしたのだと理解した。
ローゼスは、吐き出された胃酸を避けつつ、バルドリアスの足元に近づき、ローゼンクロイツを突き刺す。
バルドリアスの動きが鈍り出し、ローゼスは好機だと察知し、高く飛び上がりバルドリアスの腹部にローゼンクロイツを突き刺し、そのまま下におろし、バルドリアスの腹を捌く。
バルドリアスの動きが鈍り、自身も危機を感じたのか、どこかへ、引き返そうと、し始めた。
ローゼスはここでトドメをさせなければ次いつバルドリアスが現れるかわからない、今このうちにトドメを刺さなければ。そう思い、バルドリアスの後を追いかける。
バルドリアスは、火山の火口に飛び上がり、腹か流れ出る血を嘴で抑えながら、マグマを飲んでいた。
ローゼスもなんとか跡をつけていくと、そこには岩石を唾でくっつけたバルドリアスの巣があった。そして、その巣の中には卵が3個程あった。バルドリアスはそのた卵を傷が癒えない腹で温めていた。まるで、母親のように。
「……このために……鬼や畑の農作物を?」
バルドリアスは、己の快楽のために、農作物を食い荒らしていたわけではなかった、ただ、子を孵化させるために、体力が必要だった、その為に餌が欲しかった、森で取れる食料では足りなかったのだろう。地上ならとにかく、物資が乏しい地獄の環境下では。
「ようやく気づいたか、ローゼス」
ローゼスが後ろを振り向くと、そこにはジオニスの姿があった。
「あなた、これを知ってて……」
「未来の命か、今の命か、お前はどちらを殺す?」
To Be Continued
殺戮令嬢は鞭を振るう 〜世界一の令嬢になる物語〜 椎茸仮面 @shiitakekamen
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