第33話 地獄の怪鳥

 ギャンズはふと我に返って、目の前の状況を見た。

 倒れているムラサメと二の腕に刺さったフォークを抜き、タオルで抑えるパルスの姿を見て、自分の行いを振り返り、罪悪感が全身を一気に駆け巡る。握りしめていた拳の力が抜け、膝から崩れ落ち、嗚咽する。


「おい……誰か! ……パルスを医務室に!」


 ムラサメの叫びにメイドが駆けつけ、パルスの傷を包帯で塞ぎどこかへ運んでいく。

 そこからギャンズの意識は薄れていき、視界が黒く染まって行った。






「……くん」


 声が聞こえた。

 真っ白になったギャンズの頭の中に透き通るように入ってくる。


「ジャルスくん」

「……あっ」


 ギャンズが目を覚まし、第一声がこれであった。白いベッド上に寝かされ、隣には腕に包帯を巻いたパルスの姿があった。

 周りを見回すとそこは病室だと直ぐにわかった。


「大丈夫?」

「それは、そっちじゃない……かな」


 ギャンズはあの態度を取ってからパルスにどう接したら良いのか分からなくなっていた。

 自分があそこまで感情的になったのは初めてで、あの時はムラサメを殺したいとまで考えていた。

 だが、それが原因で無関係な彼女を傷つけてしまった。

 初めて自分が犯してしまった罪に、ギャンズは耐えられなかった。


「ごめんなさい、ついカッとなってしまって……」

「大丈夫だよ、特に酷い怪我では無いし。それより、話の事だけどさ……恩人なんだよね、ローゼスさんって。それを侮辱されたら、怒るのも仕方ないよ」

「……でも、僕はあなたを傷つけて……」

「だーかーらー! いちいちやった事引きずらないの! 被害者は許してんだから、もう忘れていいの!」

「……そうですか」


 ギャンズは口ではそう言っていたが、心には未だ、彼女を刺した事への罪が深々と刺さっている。


「あっあと、私には敬語使わなくて良いからね。歳近そうだし。私15だけど」

「13です」

「意外と近いね! よく童顔とか言われる?」

「まぁ、はい」

「やっぱりー! 私たち、意外と似てるのかもね!」


 そこから、2人は話に花を咲かせた。

 ローゼスの事、天界での愉快な事、パルスの趣味、ギャンズの好きなこと。

 様々な事を話した。

 そんな時、ムラサメが病室にやってきた。

 手元にはカゴに入ったリンゴとブドウを持っていて、少し気まずそうな表情を浮かべている。


「……おらよ、見舞いだ」

「あっムラサメ、タマ大丈夫?」

「うっせ」


 そう言ってムラサメはカゴを置いてすぐに退室してしまった。

 なんとまく足を寄せていた気がしていたが、ギャンズはあまり気にしなかった。


「ごめんね、ムラサメ結構不器用っていうか……意地っ張りというか……」

「正直あいつ嫌いっす」

「まぁ初対面あれはそうなるわ」

「というか、気になったんですけど、天人ってああいう人多いんですか」

「うーん、そうだね……半々なのかなぁ、私みたいに守ってあげるべき存在だと思う人とか、対等に付き合うべきだって人も居るけど、ムラサメみたいに下民だから酷使すべきだって人も少なくは無いかな。ジャリル君は特殊な家系だから、差別する人はするんじゃないかな」

「……そうですか」


 ギャンズはただ、そう返答するしかなかった。

すると、ムラサメが再び病室に戻ってきた。


「お前ら、ジャルス様から召集だ、怪我は大丈夫だろうな」

「え、ええ……」






 その頃、地獄のとある火山の麓にて、ローゼスとジオニスがテントを張り、そこに滞在していた。

 ローゼスは軽いシンプルなドレスに手や足の傷を包帯で押えたその姿は前のような華麗で美しい姿とはいえなかった。ジオニスは椅子に座って入れたコーヒーを優雅に飲んでいる。

 なぜ2人がここに居るのかと言うと、ジオニスが課した特訓の1つとして、ある怪物の退治を依頼したからだ。

 どうやら山に潜む雑食性の怪鳥らしく、火山から降りて麓近くの村の農作物を食い荒らす被害が多発し、多くの鬼を食い殺していると言う。



「それで、私はどの鳥を狩ればよろしくて?」

「ローゼス、あれを見てみろ」


 ジオニスが火山の頂上を指差すと火山の頂上からマグマが噴き出した。そして、火口から現れた怪鳥は、甲高い鳴き声と共に両手の翼を羽ばたかせる。

 その怪鳥は50メートルはくだらない大きさで赤い目は大きく開き、返り血をあびたように赤い嘴は鋭く、遠くからでも何人もの鬼を食い殺してきたのだろうと確認できる。

 怪鳥は鳴き叫びながら両腕の羽を広げて仰ぎ、麓まで突風が吹き荒れる。

 ローゼスとジオニスの上空を怪鳥が飛び去ると、暴風が吹き荒れ、テントが吹き飛ばされ、ジオニスのコーヒーは全てなくなった。


「あれが、お前に狩ってもらいたい怪鳥、バルドリアスだ」

「えええええええええええええええええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇえええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!????」


ローゼスの驚愕の雄叫びが、地獄の空に鳴り響く。


 To Be Continued


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