第2話 スパートスコーピオンと勝負
村の前で降りた私は魔物避けの魔石が設置された柵を通り村の中に入る。王都はレンガ造りの建物が多いが、この村は周りを岩場に囲まれているだけあって石造りの建物が多い。今も、岩を加工している店からけたたましい音が聞こえ、馬車で岩を石を運んでいる様子が見られる。
さっき目を通した依頼内容によると、このまま村を真っ直ぐ通り抜けると着く、岩場にスパートスコーピオンが出現して岩の採取が出来ないため、駆除して欲しいとの事だった。
通りすがりの村人に冒険者について尋ねると、今日の昼辺りにここに到着してすぐに問題の岩場に向かいまだ帰っていないようだった。元々のランク2の依頼がニードルスコーピオンという
時間を見ると13時を少し過ぎたくらいだった。
まだ、そんなに時間は経ってないか。死んでないといいけど。
私は情報をくれた村人にお礼を言うと、問題の岩場に向かった。村を出た瞬間、
まあ、今回はギルドが間違った依頼者を作ったからしょうがないかもしれないけど、討伐対象の情報くらいは見ないとね。
新米冒険者の生存確率を少しでも上げるためにギルドに設置されている水晶で魔物の情報が見れるようになっているのだ。それを行なっていればこんな事にはなっていなかっただろう。
クエストを何回か成功させて変に自信が付いちゃったんだろうね。
スコーピオンの棘が震え出す。毒液を吹き出す前兆だ。だが、パーティーの誰もその事に気付いていない。防御をするわけでも無く必死に背を向けて逃げている。
勢いよく毒液が発射される。パーティーの頭上に放たれた毒液は重力に従って真下にいるパーティーに降り注ぐ。リーダーらしき剣士の1人が気付き、上を見るがただ驚きの顔で毒液を見ることしかできない。
私は彼らの足元に
それに、この前の騎士団長みたいに残ると食い下がられても面倒だしね。
彼らが残っても戦力になるどころか足手纏いにしかならない。なら、彼らの気付かない間に遠い場所に飛ばした方が遥かに楽だ。
私は右手に剣を生成する。そして、消えた獲物を探してウロウロしているスコーピオンに向かって急降下する。剣を構えて一閃。巨大な胴体の中心から真っ二つに切断する。黒い血が大量に吹き出す。スコーピオンは声を出す事も出来ずに絶命。両断されたスコーピオンの身体の間で剣に付着した血を振り払い、剣を元の魔力に戻す。
「ま、こんな感じかな。前世と弱点が変わってなくてよかった」
普通に切りつけただけではその強固な皮膚を破ることは出来ない。
それをするにはスコーピオンを上から攻撃しないといけないけどね。1体だけの時は気付かれないように上に飛んで、一撃で殺した方が早くて楽。
この討伐方法が広まらないのは、それを行うには動くスコーピオンの僅かな甲殻の隙間を切らねばならず、それがかなりの難易度だからだ。前世でもこの討伐方法を使ったのは私ぐらいのものだった。
そのため、基本的な倒し方は近接武器を持った剣士等が時間を稼ぎ、その間に強力な魔法攻撃を当てて、甲殻を砕く。それから無防備なスコーピオンを攻撃する。という倒し方が一般的だ。しかしそう簡単に砕けることはなく、それをするまでに巨大なハサミや尻尾が武器持ちを追い詰め、毒液が離れたところで詠唱している魔法使いに降り注ぐ。遠近両方に強力な攻撃をする事が出来る魔物として前世でも恐れられていた魔物だった。だからこそ討伐は困難とされ、今世でもランク7という高い難易度になっている。
私はスコーピオンの体の隙間から抜けると、冒険者カードを取り出す。そしてスパートスコーピオンの頭部に近付き、カードを押し当てる。ピコンと音が鳴り、討伐数が1になる。クエストのページに完了の文字が表示される。
「さて、それじゃ本命に行きますか」
私はあちこちに存在する岩の上を蹴りながら目的の場所まで近付く。すると、目の前に無数の岩が積み重なった円形の壁があった。それを目視した私は空に飛び上がる。円形の空間の真上に位置取ると、予想通りの光景が広がっていた。
そこにいたのはさっき倒したスパートスコーピオンよりも1回り大きい個体だった。この岩場に来てすぐに
体を休めているのか6つの目を開けたまま動かない。絶好のチャンスだ。右手に剣を生成して急降下。先程のように甲殻の隙間から切断しようとする。だが。
赤い眼が上を向き、私の姿を捉えた。すぐさま長い尻尾が伸びてくる。
「ヤバ!」
毒液が滴り、緑に染まった棘を紙一重で回避して地面に着地。私を殴り飛ばそうと左のハサミを振るが、それを後ろに跳躍して回避する。やはり妊娠しているからか警戒心がオスよりも高い。完全に意識の外からの攻撃だったのに気付かれた。
メスのスコーピオンが体を縮めて一瞬で距離を詰めて来た。そう認識した時には巨大なハサミがものすごい勢いで迫っていた。咄嗟に剣で受け止めようとするが剣とハサミがぶつかった瞬間、踏みとどまる事もできず吹き飛ばされる。岩の壁を背中から激突して突き抜ける。数メートル吹き飛ばされたところで体を回転させ、剣を地面に突き刺して体制を直す。
視線を向けるとオスの作った岩の巣を自ら破壊してゆっくりと近付いて来る。
やっぱりメスは手強いね。子供がいる状態でも戦えるようになってるからパワーもスピードもオスより高いし、甲殻も硬い。
棘がこっちを向く。尻尾が震え、毒液が吹き出した。毒液の威力もメスの方が高い。右に跳んで回避する。私がさっきまでいた地面を緑色の液体が穿つ。毒液を躱された事で怒ったスコーピオンが唸り声をあげながら勢いよく接近してくる。振り下ろされたハサミを回避するがもう1本のハサミが横から近付いてくる。地面を蹴りハサミに飛び乗り、跳躍。厄介な尻尾を破壊しようと斬りつけるが火花と共に弾かれる。それどころか地面に付いた尻尾が勢いよく振り下ろされる。
「しまっ!」
ドガっ!!!
尻尾が私の体に激突し、地面に穴が開くほどの威力で叩き付けられる。バウンドした私の体を右のハサミが容赦無く吹き飛ばす。今度は体制を直すことすら出来ずに地面を削りながら転がる。
またしても吹き飛ばされた私はようやく止まるがまともに攻撃を受けてしまたため動けない。
「今のは凄い効いた、ゴホッ!」
口から血が出る。内臓を痛めたらしい。
地面に倒れたまま動かない私を見たスコーピオンが赤い目を光らせながら体を伸縮させ空に跳ぶ。両方のハサミが降ってくる。
ドガアアアアアアアアアアン!!!
ハサミが地面に激突した衝撃で大量の砂煙と砕けた地面が空に舞い上がる。
「母は強しって言うけどスコーピオンにも適用されるの?」
私は魔力障壁を展開してハサミを止めていた。ヒビが大量に入り、今にも砕けそうだが耐えた。スコーピオンが左右のハサミを何度も振り下ろし障壁を砕こうとする。何度目かの攻撃でとうとう障壁が砕ける。私は地面を転がり巨大に押しつぶされるのを回避する。
再びスコーピオンが突っ込んで来るが、私は左手に茶色い魔法陣を展開して剣にスライドさせる。
剣が茶色く光り、その剣を地面に突き刺す。すると、地面が変形して無数の土の柱が飛び出る。瞬く間にスコーピオンを囲み、動きを封じる。
「
私の魔力が黒く変化し、魔力量が爆発的に増える。スコーピオンが土の柱を壊し、空に跳躍。私は右足に魔力を集中させて地面に舞い上がったスコーピオンより高く跳び上がる。そして顔面に黒い魔力を纏わせた左拳を叩き込む。スコーピオンの巨体が地面にぶつかる。
スタッと地面に着地した私は剣に黒い魔力を纏わせる。スコーピオンが起き上がり殺意の篭った目で私を見る。
「どう?同じような事をされた気分は?結構痛いでしょ」
こちらはにこやかな笑顔で答えると雄叫びをあげながら毒液を噴射してくる。私は剣に青い魔法陣をスライドさせる。すると、剣に青い水が纏わりつく。
剣を毒液にぶつけると、緑色の毒液を吸収して青い水に変えていく。
「せっかく綺麗にしてあげたんだからありがたく受け取ってよ」
青い水を刃状にして放つ。水の刃はスコーピオンの尻尾を切断。尻尾が棘と共に落下する。
スコーピオンが悲鳴をあげる。私はスコーピオンが悶えているうちに地面を蹴り腹と地面の間に潜り込んでいた。黒百合の魔法陣を剣にスライド。
「さあ、ハッピーエンド、迎えるぜ」
膨大な黒い魔力を纏わせた剣でスコーピオンの胴体を真っ二つに切断する。
耳をつんざく絶叫を上げながら切断された巨体が地面に倒れ、溢れ出した黒い血が地面に広がっていく。
「これで依頼完了かな?」
魔物は成長速度が普通の生物より遥かに早いからね。出産前に倒せて本当に良かったよ。
ホッと胸を撫で下ろす。そして、剣を魔力に分解して回収。あとは王都に帰れば依頼完了だ。
あ、忘れるところだった。
冒険者カードを取り出してスコーピオンに押し当てる。討伐数が2に更新される。
「素材って貰ってもいいよね?」
記録は冒険者カードに残している。そして、依頼内容は討伐で素材についての言及は一切無い。もし、素材が必要だと言われたら渡せばいいのだ。むしろ、解体の手間を省いたので文句は言われないだろう。私は前世の知識を思い出しながら2匹のスパートスコーピオンの解体をした。それから収納魔法陣に甲殻やその他諸々を収納してから
(1章完結)オリジナルコード〜美少女に転生した裏切り最強魔法剣士は2人の美少女に好きと言いたい〜 暗黒太陽 @hukumalu
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