ぬいぐるみの冒険者たち

清泪(せいな)

やがてトモになる

 毎朝通勤に利用する駅のホームで、彼女は背中を押された気がした。


 次に彼女が目を覚ましたのは、不思議な場所だった。

 まるでスポットライトに当てられたように自分の姿は見えるのに、辺り一面は吸い込まれるような暗闇ばかりが広がっている。

 暫くするとそこに、巨大なぬいぐるみたちが現れた。

 犬、猫、兎、狼に馬、そして熊。

 彼女と変わらぬ大きさのぬいぐるみたちの中で、一際大きな熊のぬいぐるみがゆさゆさと横に揺れだす。

 あまりにも自然に話し始めた熊のぬいぐるみに驚く暇すら与えられず、彼女は自分が置かれた状況を説明された。

 どうやらここは彼女がいた世界とは別の世界らしい。

 毎日忙しく働く職場など無く、あるのは剣と魔法の世界なのだと教えられる。

 ぬいぐるみたちは自分たちがこの世界の冒険者であることを明かし、彼女を仲間に誘った。


 ぬいぐるみたちの使命は、邪悪な魔法使いが支配する王国を救うことだった。


 彼女は躊躇いつつも頷きぬいぐるみたちと協力して、王国を支配する魔法使いの元へ向かった。

 途中、様々な困難に遭遇しながらも、彼女はは仲間となったぬいぐるみたちと力を合わせ、魔法使いを倒した。


 最後に、彼女は元の世界に帰ることを考えたが、長く厳しい旅路を共にし仲を深めたぬいぐるみたちとの別れを惜しんだ。


 ぬいぐるみたちは彼女の勇気と絆を称え、彼女を永遠の仲間として迎え入れた。

 彼女は喜び決心し、ぬいぐるみとともに、異世界での冒険を続けることを選んだ。


 そうして、「ぬいぐるみの冒険者たち」は、多くの人に愛されるようになった。

 彼女とぬいぐるみたちは、人々に勇気や希望を与える存在となったのであった。


 愛される存在となった彼女は、やがて人々に「ぬいぐるみ」と呼ばれるようになっていった。

 彼女は最初こそそう呼ばれることに違和感があったものの、永遠の仲間たちと同様に扱われることに喜びを感じるようになっていった。


 そう、私は「ぬいぐるみ」なのだ。


 そう彼女がハッキリと思いだした時に、身体に異変が生じた。


 変わりゆく身体。

 耳に聞こえる魔法使いの笑い声。

 

 通り過ぎていく電車の音。

 騒々しい人々の声と、悲鳴。


 熊のぬいぐるみの優しく逞しい声が、告げる。


 私たちは、永遠の仲間だと。

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ぬいぐるみの冒険者たち 清泪(せいな) @seina35

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