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「スーさん?…俺だ。問題なく片付いたよ。うん、表開けてくれるとさ。カメラ類のデータは全部消す。セシルがな…あぁ、頼んだ。それじゃ」
ビルを出た俺は、スーさんに連絡を入れ終えると、セシルと共に夜の東京を歩き始めた。セシルの両親は、スーさんの所の人間への応対を頼み、今日の事は強引にでももみ消してくれるとのこと。磯崎や裏切った女…その他諸々の下っ端達がどうなるかは知らないが、まぁ、スーさん達の采配に任せよう。
なにはともあれ、一件落着だ。俺とセシルは特に言葉を交わさず、立駐に止めた車まで歩いていく。手は繋いでいたが…それだけだ。
今は夜の23時…まだ、眠りそうもない街の人々の横を通り過ぎ、駐車場から車を出して、セシルを横に乗せた俺は、帰り道の方へと車の鼻先を向けた。ここから旧首都高に上がって数十分の道のり。東京の狭苦しい道を行き、芝公園から旧首都高に上がる。疎らな一般車の中で自分の立ち位置を確立すると、俺は灰皿の横にあるシガーライターをグイっと押し込んだ?
「1本、貰えるか?」
驚いた様な顔を浮かべてこちらに顔を向けたセシルに、そう言って左手を差し出す。カチッとシガーライターが突き出てきて…セシルは徐に煙草の箱を取り出すと、俺に1本渡してくれた。
「禁煙したんじゃないですか?」
「まさか。自然と吸わなくなっただけだよ」
そう言って、煙草を咥え…シガーライターを先端に当てて火を付ける。ふっと息を吐くと、目の前に煙草の煙が舞い上がった。僅かに窓を開けて、煙草の煙を車外に逃がしつつ…久しぶりに感じる煙草の味に顔を顰める。
「不味い」
「不味いって、ヨウさん、昔はそれ吸ってたんですよ?」
「やっぱ体質が変わってんだろうな。甘党になってるし」
そう言って2,3回しか吸っていない煙草を灰皿に置くと、セシルはその煙草を取って咥えて、俺の方を見てニヤリと笑う。
「残り、貰っちゃいますよ?」
「どうぞ」
「これからどうするんですか?」
「帰る。そっからは決めてない」
「なら、行きたい場所があるんですけど」
「どこだ?」
「居酒屋!」
「……流石に今日は行く気起きねぇなぁ」
「何でですか!両親公認の仲になった記念すべき日ですよ!それに最近のアレコレのせいでお酒ずっと絶ってたんですからね!」
「まぁ、そうだろうけどもよ。ホラ、今のお前、既に酔ってないか?」
「まさか!ワタシはまだ素面です!」
煙草を吸いながらそう叫ぶセシルを横目に見ながら、俺は口元を歪ませる。正直、色々と疲れが出てきて休みたくてしょうがないのだが…
「…アッサリ解決するとは思いませんでした。葬式も挙げてやらないって決めてたのに」
「壮大な決心だったな。だけど、つまらん意地だってわかったろ?」
「えぇ。それはもう…これから、もう少し大変な時が続くと思いますけど」
「弟か。何人いるんだっけ?」
「下に2人います。6つ下と8つ下。中学2年生と、小学6年生」
「そいつらも親嫌いか」
「どうでしょうね。ワタシも13の時からフラフラしてたせいで余り会話してなくて」
「ほぉ…それで出来損ない…って評価か。当時のセシルもヤバかったのに」
俺は冗談めかしにそう言うと、セシルは苦笑いを浮かべて俺の左腕を突く。
「ま、無干渉な親ですから。忙しくなるでしょうね。会社を立て直して、子供の面倒を見てって」
「お前も家の事はやってやれよ?大酒飲みでヘビースモーカーの姉ってのは気の毒だが」
「失礼な!…まぁ、今更姉さん面も出来ないですけどね。もう2年は会ってないですし」
「そんなことは無いだろうさ。弟は、今も函館か?」
「いえ。ワタシが高校生の時にこっちに越してきてます。世田谷です。今は」
「…ってことは、セシルお前、高校の時から1人暮らしを?」
「えぇ。あの時もヨウさんの口添えで普通の高校に行けましたけど…引っ越し自体は、仕事の都合で元々決まってたみたいで。付いて行かなかったんです。なので、お金を貰って、ちょっとバイトしたりして、ボロアパートに1人暮らしでしたよ」
そう言って何気ない様子で笑うセシル。俺はそれを横目に見て口元を引きつらせる。
「お前、こう言っちゃなんだが。本当にあのグループの会長の娘かって位逞しいよな」
「そうでしょうかね?まぁ、親も若い頃は大概だったみたいですから。遺伝なんじゃないかなと思います」
セシルは煙草を灰皿に置くと、ふーっと煙を吐く。
「なんにせよ、なんか肩の荷が降りた気分です!」
そう言いながら、緩やかな左カーブに差し掛かったのと同時に、ワザとらしく俺の方に体を寄せてきた。俺はフッと笑って見せると、ウィンカーを上げて左車線に移る。もうそろそろアクアラインに繋がる分岐…アクアラインに出てしまえば、昭京府まではすぐだ。
*****
「それで、ヨウさん」
「なんだ?」
分岐を越えてアクアラインに入った頃、セシルが俺に話しかけてきた。
「今日のお店、何処にしましょうか?」
「あ?」
ふりだしに戻る…とはこのことか。俺は頬を引きつらせながらセシルの方を見てみると、彼女はいい笑顔を浮かべてこっちの横顔をジッと凝視していた。
「ヨウさん、まだ0時過ぎですよぉ…お昼も食べないとダメじゃないですかぁ」
「既に悪酔いしてる奴を連れて行く店も思いつかねぇよ!」
「なら、ワタシが良くいく居酒屋とかでも良いってことですね!」
「え!?」
「え!?」
会話のキャッチボール、最早暴投ばかり…俺は顔を引きつらせ、セシルは満面の笑みを浮かべて顔を見合わせる。すぐに正面に顔を戻したが、セシルは俺の表情を見て更に笑みを深めると、ドアに頬杖を付いて、新たな煙草を取り出して咥えてこう言った。
「運転手さん、05メガタワーまでお願いします。安くて美味しい穴場のお店に行きましょう!」
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