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「おーおーおー、こんな暗がりで懐中電灯付けて。電球切れてんのかよ」
そう言って、倉庫の明かりを付けると、中で蠢いていた人影から悲鳴が上がった。
「驚いたか。せめて鉢合わせになるかもしれない可能性位は、頭に入れておくべきだったな」
一斉に向けられた銃口。俺の目の前には、ぐったりとした男が1人。その男の首根っこを掴んで、もう片方の手で、一番近場にいた男に銃を突きつける。
「用意周到なのは良いが、アンタら、昭京府のお仲間さんがどんな目に遭ってるか知らないらしいな」
静寂の中で、響くのは俺の声だけ。全員の顔がバッチリ見える様になった事で、俺はこの場にいる全員の線を繋ぐ事が出来ていた。
既に頭痛に苛まれている事だろう。数人は既に痛みに耐えられず、手にした拳銃を床に落としてしまっている。どれもこれも安物のベレッタM1934だろう、暴発しなかっただけラッキーだ。
「それに、この間俺にちょっかい出して、何人か豚箱に行ったばかりだろうに」
そう言いながら、銃を突きつけた男以外の意識を刈り取った。バチっと右目の奥に痺れを感じ…その直後、呻き声を上げて崩れ落ちる男達。俺は盾として掴んだ男を倉庫の床に投げ捨てると、目の前で頭を抑えてうずくまった男の元に近づいていく。
「ミュータントのお通りだ。なぁ、ちょっと質問に答えてもらおうか?それとも、連中みたく1か月目が覚めない方が良かったか?」
男の目の前に落ちたベレッタを拾い上げ、痛みに顔を歪めた男の額に銃口を突きつける。
「32口径ぽっちで気が大きくなるとはな」
頭を押さえる男…彼がうずくまらない様に、銃口を額に突きつけ、強制的に俺の方を向かせた。
「何が目当てでこんな下手な真似をした?」
「書類だ!何でも良いから持ってこいと言われただけだ!」
「そうかいそうかい。正直なのは良い事だ。お宅ら、どういう書類を探してたんだ?」
「知るか!俺はただ、取引の明細が書かれていそうなものを探していた…」
「ほぅ…良い筋してるぜ。アンタらの雇い主は誰か分かるか?」
「分からない!ただ、掲示板に書かれた通りに動いただけだから…」
「だろうなぁ…磯崎って男を知ってるか?」
「知らない!誰だ、俺達の雇い主か?お前は…」
「そうか。金の為だけにこんな真似するとはなぁ…」
俺は男の質問には答えず、キリキリと男を締め上げながらこいつらを使ってやろうか考えを巡らせる。手っ取り早く、この1匹を引っ張ってセシルの元に連れて行くのが一番良いのだろうが…
「おい」
呻き声の様な声で話しかけられ、俺は意識を男の方に戻す。
「お前も迂闊だぜ」
不敵な男の声。俺はニヤリと笑い…そして、外から聞こえてきた誰かの気配に気が付いた。
「電気位消しておけよ…まだ人がいるんだ」
「あぁ、知ってるさ」
男に応対していると、倉庫の扉が勢いよく開かれる。
「誰なの!こんな時間にここにいるのは!」
キツそうな女の声…見るからにキツイ性格をしてそうな女が1人、入って来た。
「あっ……!」
俺は男の意識を軽く落し、フリーになった銃口を女に突きつける。目の前に広がった異様な光景に言葉を失った女、更には、俺に向けられた銃口を見て、一瞬で腰を抜かした。
ヒステリックに発狂したり、騒ぐ素振りが見えれば意識を刈り取る気だったのだが。更にラッキーなことに、この女…クラブでセシルと共に見た、磯崎の会社と繋がっている女ではないか。
「悪いな。ちょっと黙っててもらおうか」
俺は速攻で線を繋ぐと、男と同様に軽く眠らせてやって女を落す。あの男と、この女は後々の為の手駒にしてやろう。意地の悪い笑みを浮かべた俺は、床に崩れ落ちた女を男の傍に寄り掛からせ、倉庫の明かりを消した。
「時間的には、まだあるが…どうするかだな」
暗くなった倉庫の入り口で一人呟く。あの2人をひっ捕まえてセシルの元に向かっても良いが…まず先に、セシルが母親と合流しない事には意味がない。
どうせあの母親の事だ。セシルの無事を確認した後で、俺との仲をどうたらこうたらとか、夜に呼び出してどうのこうのと、面倒な説教が始まることだろう。
磯崎の方は…俺達の姿を何処かで見ていたであろうスーさんのとこの連中がお膳立てしてくれるはずだ。もしかしたら、こっちの方が早く来るかも知れないが…どうだっていい。
俺は手持ち無沙汰な感じで、この後をどうまとめようか考えを巡らせていた。
「…?」
暇を持て余していると廊下の隅…倉庫の入り口の扉を背にした俺の向こう側。通路の向こう側から、威勢の良い怒声が響き渡ってくる。その怒声の主達は、やがて俺が見張っていた通路の向こう側に現れて、持っていた何かが閃光を発した。
「はぁ!?」
仕事の上で何かあったのだろうかなんて呑気に構えていた俺は、泡を食って倉庫の中に飛び込む。その背後をすり抜けていくのは、数発の銃弾…銃声は聞こえなかった。
一呼吸落ち着いてから、手にしたモーゼルの安全装置を解除して薬室に弾を送り込む。1発も使う気は無かったが、まさかあんな派手に撃ち込んでくるとは思わなかった。
「滅茶苦茶やりやがる!」
そう言って、倉庫の扉の横に体を寄せると、手にしたモーゼルを見つめて、深呼吸を一つ。そして、口元をニヤリと笑わせて、体の震えを誤魔化すと、小さくこう言った。
「相手になってやるよ。暇つぶしには持ってこいだ」
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