デカい借しがまた1つ
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スーさんが準備し始めて2日目。今は夜10時過ぎ、俺はセシルを連れて、07メガタワーにやってきていた。
「今日は何処へ行くんですか?」
「ちょっと、時計屋にな」
「時計屋…ヨウさん、時計集めの趣味ありましたっけ?」
「違うよ。行けば分かるさ」
目的地は、アキさんの時計店。3階まで降りて行き、店を閉め始めるテナントが出始めたフロアを歩いて、店がある小さな通路へ。その通路の真ん中にあるアキさんの店の扉を開け、俺達は中へと入っていった。
「やぁ、ミナミ。今日は女連れか」
「どうも、アキさん。セシルだ」
「時國セシルです」
「どうも。俺は秋園。アキでいい。で…女連れてどうしたよ?」
「セシルはこの間やってもらった件の渦中にいる奴でな。オマケに俺の女らしい」
「らしいって、ヨウさん。じっさいその通りじゃないですか!家も車の鍵もあるのに!」
「だとよ」
カウンターの向こう側で俺達に応対していたアキさんは、僅かに苦笑いを浮かべたが、このやりとりで関係性は分かってもらえたらしい。僅かに発していた圧が呆れ顔と共に何処かへ消えていった。
「そういうことか。で、用事は?」
「時計が要らない事だけはたしかだな」
「じゃ、奥で話そう」
カメラの前では言えないような事…アキさんは座っていた椅子から立ち上がると、カウンター奥に繋がる扉の鍵を開けて、入っていく。俺はセシルの手を引いて、アキさんに続いた。
「何となく想像は付いてるよ」
扉を閉めるなり、応接セットのソファに腰かけたアキさんが言った。俺とセシルは向かい側のソファに腰かける。
「弾を50発、それはここで使う分。あと50発を。それは別の所で使う分」
「戦争でも始める気か?」
「自衛用と言ってほしいな」
「なるほど。最近、顔を出してないが。スーさんの所の連中が何か動いてるよな」
「あぁ、それ絡みだ。と言っても、舞台はここじゃなくて、東京になるだろうが」
「別に、そっちもスーさんも自分の事があると思うんだが…何が起きてるんだ?」
「簡単に言えば、コイツの親の会社が乗っ取られそうになってるのを助けようって話さ」
今起きてる状況を凄くアッサリとアキさんに告げると、電卓を弾いていたアキさんの手が止まり、俺の方に目を向ける。
「その程度の事に手を出したのか。正気か?」
「更に驚くぞ?この子、國枝グループの子会社だぜ」
「はぁ?お嬢さん、さっき時國って名乗ってたよな?」
「はい。今は本名を名乗っていますが、表だと別の苗字を使わされていたので…」
「はぁ…で、会社を助けるためにミナミに?」
「いえ、そこはもっと事情が特殊というか…」
「家庭の問題さ。乗っ取りは…まぁ、実際喫緊の課題だが、俺はそれを利用しようとしてるだけ」
「それで、どうして銃を使う?」
「乗っ取りを画策してる奴が元米軍らしくてな。除隊された経歴持ちの」
「何かかしらけしかけて、会社襲わせる気だな?」
「流石アキさん。俺の事を良く知ってる」
俺は悪びれる様子も無くそう言うと、アキさんは呆れた表情を浮かべて肩を竦め、ソファから立ち上がった。
そのまま事務所の奥に消えて行き、少し経ってから、弾薬箱とヘッドセットを持って来る。
「お嬢さん、この男の何処が気に入ったんだ?」
「全てです!」
「…同類って奴か」
「ちょいと、昔からの知り合いだったらしくてな。俺は暫く忘れてたが」
「お嬢さん、やっぱこの男は危ないぞ?」
「大丈夫です。どんなことがあっても付いていくって決めているので」
「はぁ…なんだか、楽しそうだな」
さっきからの呆れ顔を浮かべたままそう言いつつ、テーブルに品物を並べていくアキさん。10発入りの弾薬箱が10個と、今すぐ撃つためのヘッドセットが2個。そして、その横に金額が示された電卓が置かれている。
「案外安いんだな。色々厳しくなる一方だし、値上がりしたのかと思ってた」
俺は財布から金を出すと、電卓で示された分の札を机の上に置き、1つ目の弾薬箱に手を伸ばした。箱を開けると、中には見慣れたトカレフ弾。俺はスイングトップから木製のケースを取り出して、中に入っていた銃を取り出し、組み立てていく。
「トカレフにマカロフ。その辺のは安いから商売にならないんだ。持ってくるのも簡単だしな」
「なるほどね」
そう言いながら、空にしてきた弾倉に弾を詰め込んでいく。
「そういや。どうしてセシルの分までヘッドセットがあるんだ?」
「彼女も撃つんじゃ無いのか?」
「まさか。ただアキさんに顔見せに来ただけだ。それに、今は1人で出歩かせるのも気が引けてな」
「あぁ…そう言う事か。なんだか、最近は島も物騒になったよな」
「あぁ、全くだ」
「なら、ほらよ」
アキさんはそう言って、ヘッドセットを1つ除くと、俺に札を1枚返してきた。
「2人分で取ってたのか」
「悪い。そこは聞いておけば良かったな」
「いや、取っといてくれ。新規会員料みたいな感じで」
そう言いながら、弾倉に10発の弾を込めてしまう。ヘッドセットを頭に付けて、銃本体を手に取ると、セシルの方に顔を向けながらこう言った。
「本番の時は、入用にならないことを祈ってるんだがな。いざという時の為には、練習しておかないと」
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