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クラブを出た俺達が向かったのは、昭京府の02メガタワー。時間は午前0時半。閉店間際だが、やってる時間ならセーフだろう。店の扉を開けて店に入ると、スーさんが俺達の顔を見て、浮かべた営業スマイルを素の優し気な表情に切り替えた。
「遂にいらっしゃいませすら言わなくなったぜ」
「この時間に来る人なんて、訳アリの常連さんが多んだよ」
「確かに言えてら。ブレンド3つ」
「《 《3つ》》?」
「あぁ」
入ってすぐの所でスーさんに注文を入れた俺は、セシルを連れて普段の席へ。そこで一息つき…セシルが本日早くも2箱目に到達となる煙草に手を伸ばしたところで、スーさんが注文通り3人分のブレンドコーヒーを運んできて、テーブルの上に並べた。俺とセシルの前にコーヒーを並べ、スーさんが俺の隣に座って、自らの前にコーヒーを置く。
「こう言う事でしょ?」
「流石。まず、確認なんだが。島の連中は何処まで締め上げた?」
「殆ど終わってるよ。今日中にあと3人やれば終わり」
「よし。反応は?」
「まぁ、どいつもこいつも表の顔は、それなりに大事にしてるからね。問題は無いよ」
「だろうな。火遊びし過ぎただけさ。別に、手が出てこなけりゃ放っておくだけだし」
「確かにその通りだ。で、今日は何の様?」
適度な雑談の後で、単刀直入に聞いてくるスーさん。俺は苦笑いを浮かべ、コーヒーを一口飲むと、セシルの方に顔を向けた。
「セシルの母親の会社にいる幹部を1人、揺すって欲しい」
「はぁ?」
俺もストレートに告げると、今度はスーさんが驚く番。
「セシル、あの女の名前とかは知ってるんだよな?」
「はい」
「いや、ちょっと待ってくれミナミさん。揺するって冗談だろう?」
「半分は冗談だな」
俺はそう言うと、この間の雑誌から切り抜いたスクラップをテーブルの上に載せてスーさんに見せた。
「この記事に書いてる事、大分ふざけた内容が書かれてると思ったが大違いだった」
「ん?あぁ…毎日渋谷のどっかで騒いでるだか何だかって?」
「あぁ。書き方は只の馬鹿が騒いでる様にしか見えないが、実際は違う。そこでも奴等はしっかり仕事してるわけだ。金持ちを釣るためにな」
真面目に俺が話し始めると、スーさんとセシルが少しだけ身を乗り出してくる。俺は2人に記事のあちこちを指しながら説明を続けた。
「さっきセシルと行ってきたよ。そしたらこの男がいた。ちゃんと仕事してたぜ?相手はセシルの母親の会社の女。今日見かけられたのは偶々だろうが、乗っ取りに協力してる人間は何人かいるんだろうな」
「まぁ、ウチの親、人使いも杜撰ですし…」
「というわけでな。この手の裏切った連中をそそのかして、磯崎達にちょっかいをかけたいと思ってる」
「つまりは、脅して連中の尻に火を付けろって?それで動くかな?」
「どうだろうな。後先考えないアホならやりかねないが。それに、これを見てくれ」
そう言って指した先。そこには、磯崎の経歴が簡単に書かれていた。
「もと米兵らしいな。除隊になってたんだっけ?」
「あぁ。女への強姦未遂で」
「血の気が多いってことだろ。そんな奴が金持ってみろよ」
「なるほど。言いたいことは分かったけど、火を付けるには足りないと思うよ?」
「じゃ、裏切りの情報に…磯崎がセシルを許嫁にしてるって情報を混ぜ込ませれば?」
「…あったね、そんな話…それをどうする?」
「セシルの母親辺りに、部下の裏切りを告げ口すれば…反撃材料が出来たと思わないか?」
俺はそう言うと、セシルの方に顔を向ける。
「それに、石井っていうお抱えの興信所もあるしな。少なくとも動くだろう。その時に、磯崎の失点を稼ぎつつ、母親側が何かのミスをするように仕向けたい。石川の調査でも何でもいい。磯崎をキレさせてくれればそれで」
「ややこしい注文だね。道筋は分かったけどさ、出来る可能性は低いよ?」
「その辺は運も絡むだろうから、妥協点は高めにする。告げ口をするまでは問題ないだろ?あぁそうだ。ついでに島の人間の洗浄を石井に擦り付けてやればどうだ?」
「石井に動機は無いだろうに」
「セシルの身を案じた母親の指示だとでも言ってやればいい。幾ら娘を差し出すようなアホでも、命は流石に惜しいもんな」
「ミナミさん、相変わらず容赦無いな…」
スーさんはそう言って顎に手を当てて悩む素振りを見せる。チラリとセシルの方を見やると、煙草を咥えていたセシルは、首を傾げて俺達の方を見返していた。
「セシルちゃん、良いの?こんな手を使っちゃって。大分、会社に迷惑かけちゃうと思うんだけど…」
「はい。ワタシも今初めて聞きましたけど。ワタシはヨウさんに付いていくと決めているので」
「…だよなぁ。あれだけ惚気てたら、そうくるよね」
一体、セシルはスーさんと仕事している時に何を話したのだろうか?一瞬、余計なことが頭に浮かんだが、俺はそれを振り払い、スーさんの答えを待つ。スーさんは、暫く悩んだ挙句、頭をガシガシ掻くと、ニヤリと悪い笑みを浮かべる。どうやら、勝ち筋が見つかったらしい。
「火を付けたら、鎮火役はミナミさんなんだよね?」
「あぁ。任せておけ。後始末はあるかもしれないが」
「ったく。これは流石にお金取るからね?。追加もその時に」
「当然。ただ、後払いで良いか?成果払いだ」
「そう来ると思ってたよ。それでいい」
スーさんはそう言って、少し冷めたコーヒーを一気に飲み干すと、ソファから立ち上がった。
「じゃ、段取り着いたら連絡する。ミナミさんも遂に携帯電話を持ったわけだしね」
「頼んだぜ」
そう言って、仕事に戻っていくスーさんを見送った俺は、セシルの方に顔を向けてこう言った。
「さ、酷いマッチポンプだが…順調に舞台が整ってきたな」
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