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証拠類を小泉に押し付け、奴をファミレスに放置して外に出てきた俺達は、00メガタワーを後にして、02メガタワーにやってきていた。今は深夜0時を回った所。目的地は、スーさんの喫茶店。店が閉まるのが午前1時だから、ギリギリセーフといった所だ。
「いらっしゃい…珍しい。こんな時間に」
店の扉を開けて中に入ると、暇を持て余していたスーさんが出迎えてくれる。店内を眺めてみれば、客は1人もおらず、今日はもう誰も来ないまま店を閉める、そんな空気が漂っていた。
「どうも。スーさんにちょっと用事があってさ」
普段のボックス席に通されつつ、俺はスーさんを席に招き入れる。
「厄介な問題持って来たな?」
スーさんはそう言いながら、席の隣のボックス席の隅に腰かけた。
「厄介だろうな。磯崎の子飼い連中をどうするか考えててさ」
「あぁ、その話。俺も、あの書類に書いた分しか割り出せなかったんだけど…」
「構わない。さっき、その中の1人と話してきた。ざっとこの島に30人いるらしいぜ」
「…大胆なことするじゃない」
「表の顔の時に、天下の往来で暴れる程アホじゃないよな。この島の人間なら」
「まぁ、そうだけども…それで?」
「セシルと協力してもらう必要があるが、島の中の子飼いに釘を刺して欲しいんだ。期限は来週末。どうだ?」
俺がスーさんに頼みごとを告げると、向かい側で煙草を燻らせていたセシルがむせかえった。
「ご、ゴホッ!…ケホ…!よ、ヨウさん。ワタシ、聞いてないんですけど!」
「今言ったからな」
突っ込んできたセシルに、サラリと返す。その様子を見ていたスーさんは、苦笑いを浮かべながら肩を竦めた。
「その子に手伝ってもらっても、無理だと思うよ?」
「そうか?セシル、掲示板の情報から割り出せと言ったらどれだけかかる?」
「恐らく…3日4日?逐一情報出しながら同時進行が出来れば、無理では無いかと」
「…掲示板って?」
「磯崎が副業を斡旋してる掲示板さ。スーさんは知らないだろうが…コイツな、島内全てのカメラを覗き見れるわ、相手のPCの利用状況を持ってこれるわ、下手な情報屋が形無しになる位に動けるんだぜ?」
「ほー…ミナミさんも、とんでもない子に捕まったね」
スーさんはそう言って小さな笑みを浮かべ、そして素の表情でセシルの方に目を向ける。セシルは一瞬驚きはしたが、すぐに苦笑いを浮かべて首を傾げた。
「セシル、スーさん向けの携帯を用意するにはどれだけかかる?」
「ミナミさん。俺、持ってるよ?それ位。ミナミさんじゃないんだから」
「あぁ…そうだった。なら、明日からでも取り掛かれそうか」
「スーさんが大丈夫でしたら、ワタシの方で今日中に色々準備しますが…」
「ほんとに、ミナミさん、人には恵まれてるね。分かった。受けよう…釘を刺すだけで良いのかい?」
観念したようにスーさんがそう言うと、俺は笑みを浮かべて小さくガッツポーズをして見せる。
「よし!決まり。手は任せる。二度とヤンチャな副業を出来なくしてくれればそれでいい。その為の弾が欲しけりゃ、セシルに任せてくれ」
「そう聞くと、楽な仕事に思えて来るね。まぁ、30前後なら…すぐか」
「で、幾らかかる?」
「そうだな…セシルちゃんの手が借りれるとなれば…」
スーさんは顎に手を当てると、チラリとセシルの方を見やった。
「なぁ、セシルちゃん」
「何でしょう?」
「俺もインターネットとやらにはまだまだ疎くてさ。良く分からないんだ。その辺、どっかで教えてくれないかな?」
「ワタシが教えられる内容ならば…あ、もしやるなら、ヨウさんも強制参加ですよ?」
「俺もかよ」
「それと…もし出来るんだったら、セシルちゃんの過去を知りたい。ウチに来だしてまだ2か月ちょいだけど、余り話せてなかったよね。話せる範疇で良いから…どうだろう?」
「そこまでやるか?」
「営業みたいなもんだと思ってよ。この店も会員制だし。セシルちゃん、ミナミさんに付いてきてるから入れてるけど、実際会員じゃないし…本人を前にして言う事じゃないと思うけど、探っても情報が全く出てこないんだ」
俺はそれを聞いてセシルの方に顔を向ける。セシルは煙草を咥えながら、苦笑いを浮かべて首を傾げた。
「入会費と、年会費1年分は要らない。これは俺の素直な興味だ。も少しセシルちゃんの事が知れれば、今回の依頼費は無しでいい」
「そうですか!なら、何なりと聞いてください」
「ちょっと待てセシル、良いのか?そんな即決で」
「大丈夫ですよ。ヨウさん、ここに、いつから来てるんです?」
「4年前だ」
「それなら十分、信頼するに値する人ですよね?」
「まぁな。だが、お前の事だぞ?」
「確かに隠している事は多いですが、話さないわけでは無いんです」
飄々とした様子のセシル。俺は呆れ顔を浮かべつつ、スーさんの方に顔を向けた。
「じゃ、それで。スーさん、セシルに余り深追いするもんじゃないぜ?」
「大丈夫だよ。この店の会員になる時にハッキリさせておきたい事を聞くだけだから」
「そうしてくれ」
俺はそう言うと、店に掛かった時計を眺めて、そしてスーさんの方に顔を向けなおしてこう言った。
「そろそろ終いだろうが、ブレンド1杯。何も無しで出るのもな…」
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