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 00メガタワー12階にあるファミレスのボックス席。通路側に俺とセシルが座り…その向こう側には、僅かに表情を歪ませた小泉が不服そうな態度を見せてこちらを睨みつけていた。


「睨むなよ。飯の1つ位出してやるっての」


 俺はワザとらしくそう言うと、気分に合わせてを調整して小泉を内側から痛めつける。注文は既に終えて、今は料理が来るのを待っている段階。相も変わらずラストオーダーに近い時間に注文してしまった罪悪感があるが…今は目の前の男に話を聞くのが先だ。


「俺に何をした?」

「何もしてないさ。働き過ぎなんじゃねぇか?」

「この…」

「おっと、それ以上喚くなよ。話しかけてるのはこっちだ」


 俺はそう言ってお冷で喉を潤すと、小泉をジッと見据えて口元をニヤつかせる。隣にいるセシルも奴を見据えていたが、興味なさげに煙草を取り出した。


「随分と危なっかしいに手を出してるそうじゃないか」


 そう切り出して、スイングトップの内ポケットから折りたたまれた書類を取り出すと、小泉に見せつけた。


「良く分からんが、この"あきパパさん"とやらがアンタのハンドルネーム?っていう奴だそうだが、認めるな?」

「知らん」

「そうか…お前な、とぼけたって無駄だと何時になったら学ぶんだよ」


 俺はニヤニヤ笑みを浮かべながら、更に書類を取り出して男を追い詰める。それは、彼のここ数日のPCの利用ログがビッシリ書き込まれた書類だった。


「調べもしないで、アンタを詰めるかよ。確かに、表の面はサラリーマンだな。商社の営業マンだ。それには、お前の表と裏が詰まってる。例えば、ネットを使って買った車用の芳香剤…そこに書いてるだろ?あれ、お前のBMのダッシュボードにこれ見よがしに置いてあったよな」


 淡々と事実を突きつけていくと、小泉の表情が段々と青くなっていく。


「そして、そのタイピンもそうだな。届いたのは2週間前。注文は3週間前だ」


 俺は小泉が徐々に震えていく様子を眺めながら、ジワジワと追い詰めてやる。


「で、そんな平和な使い方をされていたはずのPCだが…同時に妙なやり取りも記録されてる。これがキッカリ別々になってんなら、まだ言い訳のしようもあったんだろうが」

「ヨウさん。それ、出来ませんよ?外部から操作するには、何らかの方法で侵入しないとダメですから。侵入の痕跡が見当たらない以上、この人ないしはこのPCを使える場にいた人の操作です」

「…だそうだ。”あきパパさん”?」


 ワナワナと小刻みに震える小泉を見て、俺とセシルは顔を見合わせ肩を竦める。更に厨房の方に目を向ければ、丁度、遠くで俺の注文していたプレートが出てきたのが見えた。


「一旦、頭を整理させてやるよ」


 俺は書類を小泉に押し付けて自分の前にスペースを作り、運ばれてきた料理が俺の目の前にやって来た。


「警察に駆け込んでワーワーするつもりは無い。ただの脅しだ」


 店員が去って行き、俺は料理に手を付ける。小泉は用紙に穴が空く位にそれらを読み込むと、愕然とした表情で俺の方に顔を上げた。


「昭京府の監視カメラってな、23区より狭い癖に東京全体の25倍もあるんだわ。やろうと思えば、お前の1日をカメラで追えるんだぜ」


 何も言えなくなった男の前で、普段通りの調子で食事を進めつつ、奴が知らなさそうな事実を告げていく。


「別に、さっき上げた写真だけじゃ、まだ何とでも誤魔化す余地はあったと思うがな。だがどう思う?家を出たその瞬間から、俺達を見つける所までをコマ送りに出来るんだ。それも、襲われた張本人の俺達ならな。警察ですら面倒くさがってやらないが…」

「な、なんなんだ…お前は…」

「ん?ちょっとカメラの設営に加わった一般人さ。だから、死角も知ってるぜ?」

「何が目的なんだ?何を知りたい?」

「目的は、そうだな。喧嘩を売る相手を間違えるなと警告したかっただけ。知りたいことは余りないが…そうだな…この間の襲撃に関わった人間以外に、どれだけこの島にが居るか知りたいなぁ」


 俺はそう言うと、ハンバーグを一切れ食べて小泉を見据える。奴は顔面を蒼白にさせて固まると、目を泳がせ始めた。


「相変わらず粘るな。プロ時代は球に掠りもしないで粘れなかったヘボバッターの癖によ」

「そこまで知ってるのか…」

「あぁ、お前達に仕事を回してる連中の事も、ちゃんと調べてある。ハンドルネームで言えば”ドクター”って奴だろ?ソイツな、磯崎とかいう、投資会社の役員なんだ」


 口を割らない小泉に、俺は奴ですら知らないであろう情報を次々に挙げていった。その度に、奴は驚き…そして段々と追い詰められていく。そろそろ、頭痛も相当な痛みを感じる所まで来ていることだろう。


 俺はセットで付いてきたコンソメスープを啜って落ち着くと、奴のやる。


「東京でもお前の仲間に襲われたんだぜ。派手にやりやがるよな、銃撃だなんて。その銃の出所も掴んだよ。なぁ、吐いちまえよ。何人いるんだ?あの掲示板に書き込んでる島の人間は」


 痛みが引いてホッとした様子の小泉に、俺はそう詰め寄った。再度追い詰められた様な表情を浮かべる小泉。奴は遂に観念して資料をテーブルに落すと、脱力してソファにもたれかかる。


「30人近くいるはずだ。上下はするだろうけど、それ位…」

「30?じゃ、の仕事は取り合いになりそうだな」

「あぁ、人が集まるまでは高く雇われてたが、今では入札方式さ。最安値を出した人間に優先的に振られていく。でも、抜けようにも…口座まで抑えられたとなれば、抜けられない」

「ほぅ…楽しい事やってんだな」


 話を聞いて呆れた表情を浮かべると、セシルも似た様な顔を浮かべて、煙草の煙をふーっと吐き出したところだった。


「ま、そんな事は知らねぇよ。自分でケリ付けな」


 俺はそう言って肩を竦めると、セシルの方に顔を向けてこう言った。


「さて、どうする?最低でも30人ちょっとは俺等を狙いそうな連中がいるらしいぜ?」

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