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「この辺なのか?」
見つけた人物に声をかけると、そいつは全身に電撃が走った様に震えあがった。
「そんなに驚くことか?石井って言ったっけ?」
男が逃げ出す前に線を繋いで、軽く頭痛を味わわせて身柄を確保。俺に肩を掴まれた男は、俺を振り解く事はなく、恨めし気な表情でこちらを睨みつけた。
「お前…」
「まさか会えるとは思わなかった。ちょっと、雑談しようぜ?」
ガッチリと肩を掴んでそう言って、俺は男を離さない。そのまま、パッと視界に映った店の方に男を引っ張っていき、そのまま中に入っていく。そこは、深夜でも開いているハンバーグレストラン。この間とは違う店、ラストオーダーギリギリな時間だろうが…構うまい。
「悪いね、2人で。とりあえずスープバーとドリンクバーを2つ」
入ってすぐ、ちょっと嫌そうな顔を浮かべた店員に、そう言って笑みを見せる。席に通された俺達…案内してくれた店員の去り際に俺にとっての昼飯となる定食メニューを頼んで彼を見送り、そして、向かい側で頭の痛みを堪えて俺を睨みつけている男の方に顔を向けた。
「何の真似だ?」
石井はそう尋ねてくるが、俺はその質問には答えない。いきなり何かを切り出すような真似をせず、周囲の様子を確認することにした。
突発的に入ったレストラン、客は俺達の他にも数組いるが…皆、閉店までの時間つぶしが欲しい様な連中ばかりの様だ。店員連中も、暇を持て余していたようで…俺達が入ってきた時こそ嫌な顔はすれど、いざ仕事を与えられれば、暇つぶしとばかりに取り掛かってくれている。
「お前に用事があったんだ。気になったら夜も寝れなくてな」
「俺が答えるとでも?」
「その自信が何時まで持つか…見ものだな」
そう言って、更に頭の締め付けを強くする。石井は苦痛に顔を歪め、そして僅かに声を漏らした。
「この辺り、お前のシマだったのか?」
苦痛に歪んだ顔。それを見て、口元を歪ませた俺は質問を始める。石井は歯を食いしばりながらも、必死に俺から目を逸らして質問に答えようとしなかった。
「目を逸らしても無駄だぜ?見えさえすれば、俺からは逃れられない」
「畜生…」
「何も、セシルの親と交わした契約内容について聞くわけじゃない。お前の事だけだぜ」
「この辺りじゃない。新宿だ」
「ほぅ。じゃ、どうしてこの辺りにいた?」
「偶々だ」
「偶然も2回続けばなぁ、どう思うよ?石井。この間、どうして俺達を見つけられた?」
「……それが目的か」
「あぁ、妙に引っ掛かってる。アンタの差し金だろ?島で俺達を付けてきた連中は」
「あ?どういうことだ?」
おっと?…俺は思わぬ反応に目を丸くする。石井の反応、さっきまでの答えたくないといった声色が、素で困惑している様なソレに変わったからだ。
「…01メガタワーの連中だ。お前等と同じスーツ姿をした男が何人かいた。BMに乗ってたな。あれ、お前等じゃないのか?」
「違う。俺はただ、お前達が東京に来たと情報を得ただけだ」
「その出どころは後で聞こうか…じゃ、あの店を襲って撃ってきた連中も違うのか?」
「あぁ、お前達を見つけた切欠の1件だ。ウチの職員が、そんなバカは起さない」
「……参ったな。あの時は一本取られたか。お前のとこの名前を騙っていたんだがな。じゃ、セシルを狙ってる連中がお宅らの他にまだいるわけだ。面倒くさいな…」
そう言って、俺は僅かに顔を曇らせた。真っ先にセシルの事が思い浮かんだが、アイツは今、メガタワーから動いていない。居住区の特性を考えてみれば、アイツの親以外に入ってこれる人間は居ないと思いたいが…
「勘は外れたらしいな」
石井の線を解いてやると、石井は元の様子に戻ってそう言った。俺は素直に頷くと、お冷で喉を潤し、苦い表情を浮かべる。
「最初の襲撃から、銃で撃たれて、最後はお前だ。出来すぎてると思ったが…まさか別々だとは思わなかった」
「だろうな」
「振り出しに戻った気分だが、まだ質問はあるぜ。どうして俺らが東京に入ったことを知った?この近辺に来たことを知ったんだ?」
「そんなもの、俺等のネットワークを舐められちゃ困る。お前の車は目立つからな。大体の場所さえわかれば、後は予め調べておいたお前の癖に沿って探せばいい。あの日は1発だったよ」
俺の質問に、石井は得意気にそう答えた。苦笑いを浮かべ、そして小さくため息をついた。最近、俺は誰かから調べられる事が多い気がするな…
「良く分からないのは、お前が昼夜逆転の不思議な生活を送ってる事くらいか」
「それは、答えに辿り着ける人間が居ないだろうからな。俺くらいしか知らない」
「その体質とやらもか」
「あぁ。深入りは禁物だ」
俺はそう言いながら、もう一度お冷で喉を潤し、コップを空にする。
「しかし、襲撃犯の方は気にならないか?」
「俺には関係のない事だ」
「そうか。あんた、あの狸オヤジの雇われだろ?」
「…何が言いたい」
「セシルが襲われてるが…目的は奴じゃなく、その親の会社なはずだ」
「……何を根拠に」
「どう贔屓目に見ても、セシルにあんな手間をかけて拉致する価値は無いだろ?」
堂々とそう言い切った時、俺達の会話は、遠くから運ばれてきたワゴンに遮られた。怠そうな店員が、ジュージューと音を立てるハンバーグプレートとライス、フライドポテトを俺の前に並べて去って行く。
「……」
「……」
「ポテト位なら食っていいぞ」
「お前、本当に何で夜に生きてんだ?」
少しの間、気まずい空気が流れたが、ポテトをきっかけに話が再開。俺はナイフとフォークを手にしながら、さっきの続きとばかりにこう言った。
「さっきセシルから聞いたんだ。堅調だった会社が傾きかけてるらしいじゃないか」
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