-4-

 深夜1時。スカイラインのを終えて、ローレルのオイル交換もやってもらった俺は、タクトの店を後にして、再び環状線に繰り出していた。今日出向く場所はあと1か所。そこは、昭京府ではなく、東京のとある場所。


 さっき何周と回った環状線をゆっくり流すというのは、どうも違和感だ。スカイラインに乗っていた感覚で、ついアクセルを多めに踏みそうになってしまう。右足を抑えつつ、環状から湾岸へ出て、ただ真っ直ぐのつまらない道に出た。


 ピリリ!…ピリリリリリリリ!…


 暫く走って、暇を持て余しそうになったタイミングで電話がかかってくる。相手は間違いなくセシルだ。俺は助手席に適当に置いていたヘッドセットを付けると、その線を携帯に繋げて、電話に出た。


「もしもし?」

「ヨウさん、こんばんは。今、運転中ですか?」

「あぁ、でも大丈夫だ。何かあったか?」


 ヘッドセット越しに聞こえてきたのはセシルの声。特に他の物音等は感じられないから、恐らく部屋からかけて来ているのだろう。


「途中経過ですが、ちょっと気になった事があって、それだけ伝えておこうと思いまして」

「良い心掛けだな。助かるよ」

「いえいえ。早速ですが、ウチの親の会社を幾つか調べてたら、何個かの会社の業績がここ2年で急激に落ちてる事を知りまして」

「…あのオヤジさんの会社なら…まぁ、有り得ない話でもないだろ?」


 ちょっと失礼な言葉を返すが、セシルはフッと鼻で笑ってそれを流す。


「そうじゃないんです。母の持ってる会社ですね」

「そっちも持ってるのかよ」

「えぇ、拡大やら何やら…色々手を広げてるのは父ですが、その尻拭いというか…経営の方は母の方が優秀なので」

「なるほど、通りで潰れない訳だ。で、急落の様子が変だと言いたいのか」

「はい。"ビスポーク"という飲食関連の会社ですが、堅調だったはずなんですよ」

「安定させてしまえば、落ちる要素は無し…か」

「ですが、急にガクッと右肩下がりになっていて…結構ピンチです」


 少々不安げに話すセシル。親が嫌いだと公言してはいるものの、不幸になれとまでは思っていないようだ。俺は会社名…"ビスポーク"を頭に叩き込む。


「分かった。そっちも調べてみるか」

「はい…そう言えば、ヨウさんは一体何処へ?」

「東京だ。汐留辺りにもう一回行こうと思ってな」

「汐留…一体どうしてですか?」

「この間のがただの不運かどうか、調べておこうと思ってな」

「なるほど…気を付けてくださいね」

「あぁ、そっちは?ま、何も無いと思うが」

「そうですね、平和です」

「そりゃいい。あと2日。大人しくしてろよ?」

「分かりました」

「それじゃ、切るぞ」

「はい」


 通話を終えると、丁度アクアラインに合流した。ここから、汐留まではどれくらいだろうか…込み具合にもよるが、そんなに時間はかからないだろう。俺はふーっと長い溜息を付くと、落していたオーディオの音量を上げた。


 *****


 汐留出口で旧環状を降り、この間も止めた立駐に車を入れた俺は、この間と全く同じ様な道筋を辿っていく。周囲を見回しながら辿り着いたのは、銃撃されたファストフード店。そこに明かりは付いておらず、規制線が貼られ、割れたガラスの破片がまだ微かに残っていた。


 1人くらい、警察官が張ってると思ったが…人影は何処にも見当たらない。犯人も捕まったのだ、あとは直して営業再開…という所まで来ているのだろうか?俺は歩道から店内の方をジッと見回し、そして通り過ぎていく。


 ここまでの道のりで、俺達の事をは多くないし、監視カメラの数も疎らだった。と、なれば…連中の襲撃は完全に運だった…と思い始めて来ているのだが、それにしては


 俺は妙に何かが引っ掛かっている頭を回転させつつ、この間逃げ込んだ裏路地に入っていった。スーツ姿の男に追い回され、そしてその殆どを場所…表の通りから1本入っただけで随分と暗くなるが…それでも、最低限の明かりは付いている。


 その通りに入って、周囲を見回し、手掛かりは無し。リーダー格の男とをした場所も覗いたが、そこも特に変な場所では無かった。


「運にしちゃぁ、宝くじレベルだよな」


 一通り眺めて…もう何度か、同じ道のりを辿って調べて、表通りに戻った俺は、歩道の柵に腰かけて独り言をポツリ。何か手品があるなら教えてもらいたい…というか、調べておきたいというのが、今日最後の目的だったが…これはどうやらハズレの様だ。


 会社の事に、襲撃者の事…調べられそうな所から手を伸ばして、然るべきに頼んでいるから、後は俺も大人しくしていれば良いのだが…妙に引っ掛かる。この近辺に、偶々連中の棲み処があって、俺らがそれを踏んだだけ…でもいいから、それっぽい答えが欲しかった。


「ま、素直にハズレだと認めますかね」


 柵の上に腰を当てて暫く考え込んでいた俺は、そう言って柵から立ち上がる。そして、駐車場の方に戻ろうと足を踏み出した途端、遠くの方に見覚えのある顔を見つけ、思わず下衆い笑みを浮かべてこう言った。


「なんだ。やっぱ、何かあるじゃないか」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る