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 ひと眠りして目が覚めると、視線の先には見慣れない天井。パッと身体を起こすと、眠そうな顔でコンビニ弁当を食べていたセシルが俺の方に顔を向けた。


「お、おはようございます」

「あぁ、おはよう…そうか、ここ、ホテルか」

「そうですよ。一応、ヨウさんの分も買ってます」

「悪いな」


 そう言いながら、まだ眠たい頭を擦りつつ、応接セットのソファに座る。パッと体中を見てみれば、特に何かされた跡は無かった。


「手を出しては来なかったか」


 ボソッと冗談を1つ、するとセシルが飲んでいた緑茶を噴き出した。


「するわけないじゃないですか!ワタシだって処女です!」

「それもそうか」


 顔を真っ赤にしたセシルを見て妙な安心感を覚えると、俺はテーブルの上に置かれたコンビニのおにぎりに手を伸ばす。


「貰うぜ」

「どうぞ。あと、お茶も」

「サンキュ」


 フィルムを捲っておにぎりを一口。中身は鮭だった。ここでようやく頭がマトモに動き始める。テーブルの上に置かれていたテレビのリモコンを取って、赤いスイッチを押すと、備え付けの巨大なブラウン管テレビが音を発した。


「今、何時だ?」

「まだ17時半って所です。早起きですね」

「お前は何してたんだ?」

「ワタシも似た様なものですよ、1時間前に起きて、ついさっきコンビニに出かけた位で」

「時間、何時までだっけ?」

「一応、延長に延長って感じにしていますけど」

「ならいいか」


 何気なくチャンネルを公共放送に合わせると、昨日のハンバーガーショップ襲撃のニュースが流れてきた。俺とセシルはその光景を眺め、そして怪我人が1人も出なかったことにホッと溜息を1つ。


 ニュースによれば、襲撃犯は店を出てすぐの路上で倒れており、全員逮捕されたらしい。だが、連中は取り調べには応じず、黙秘を貫いているのだとか。


「まぁ、話す訳ないよな」

「ですよね」


 一通りが確認できたところで、俺はおにぎりを食べきってしまう。


「そう言えば、ヨウさん、昨日、あの男から奪った拳銃ありますよね?」

「ああ、なんか持って来ちまったな」

「どうするんですか?足が付くとは思いませんが」

「処分は出来るからな。どれどれ」


 セシルに振られた拳銃の話…俺はハンガーに掛けたスイングトップのポケットから、小さなイタリア製の拳銃を取り出すと、それを手際よくテーブルの上でバラしていく。


「何でそんなに手慣れてるんですか」

「まぁ、付き合う連中がなぁ」

「そう言えば、どうしてあの拳銃を?」

「モーゼル?あれは爺様の形見だよ。遺品整理で見つけて、そのまま持ってる」


 そう言ってる間に、ベレッタは簡単にバラし終えてしまった。まぁ、全バラというよりも簡易的な分解だが。見てみれば、見た目のくたびれ具合の割には随分と状態はよく…更に、銃口にはサイレンサーが付けられそうなアタッチメントが後付けされている。


「ま、後は任せとけ」

「って事は、捨てないんですね」

「あぁ、金に変える気は無いから安心しろ。本体さえありゃ、弾はどうにでも出来る」

「昨日のアレを見て、どう安心しろって言うんですか」

「犯罪とかには使わないって意味さ。人を撃つ趣味は俺に無い」


 キッパリそう言い切ると、セシルは苦笑いを浮かべつつ肩を竦めた。そして、何気なくテレビを眺め…ハッとした表情を浮かべて俺の方に向き直る。


「そうだ。昨日、言い忘れていた事がありました」


 テレビで流れていたのは、に関するニュース。


「ヨウさんのその目の秘密をどうして知ったのか。それが抜けていましたよね?」

「他にも色々あった気がするが…まぁ、良いだろう。確かに聞いてなかったな」


 俺はそう言いながら、右目をコンとつつく。


「その話をすれば、良い時間でしょうし、簡単にお話しますね」

「頼む」

「ヨウさんのその力ですが、原因は使っているインプラントのハードウェアにあります」

「…いつだったか、言ってたな。つまり、どういうことだ?」

「機器そのものではなく、それを動かす為の仕組みにあるってことです」

「なんだ、プログラムとか言う奴か?なんかこう、呪文みたいなのが並んだやつ」

「それです。ヨウさんが使っている義眼のメーカー…スギシタ精密工業の他にも2社、インプラントを出していますが…今、それらのメーカーは独自のハードウェアを搭載していますよね?」

「良く知らんが、まぁ、テレビでもそう言ってるな。今、まさに」


 そう言いながらテレビの方を見てみれば、流れているニュースはまさに、スギシタ精密工業のインプラントのハードウェアがどうたらこうたらというニュースだった。


「今でこそ独自ですが、ヨウさんの様な、95年に手術を受けたの患者さんの付けているインプラントは、どのメーカーでも同じハードウェアを搭載していたんです」

「そうだったのか。てっきり中身も違うのかと」

「最初期ですしね。問題はその中身で、一部の制御が、人間の脳に妙な信号を送ってることに気づいたんです」


 セシルはそう言うと、手にしていたペットボトルをテーブルの上に置いて、こう言った。


「恐らく、それが力に置き換わった人は一握り。ですが、ヨウさんみたいな人は、確実にこの首都圏に存在するはずですよ」

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