Reborn

@yuuuummy

第1話

高校3年生の春、吐き気がする。何本か足りない弦楽器で必死に音程ををとっている俺の自信に耳を傾ける事もなく、その弦をペンチで切断してくるような言葉がろうとを経由しているかのように僕の耳に大量に流し込まれる。中でも一番の切断力を誇るのは「将来の夢」という言葉だ。僕にはなんの取り柄もない。顔が良いわけでもないし、頭が良いわけでもない。大体、顔が良いやつ馬鹿で、そうでもない奴はそこそこ頭が良いのが定番だ。陽キャと陰キャだ。俺はそのどちらにも属さない、と言うか属せない。何故なら、僕はその両方を馬鹿にして蔑んできたから。親友と呼べる友達も誰一人居ない。この問題は何回でも何回でも僕の脳裏に停車して、誰かが乗ってくるまでは満足して帰ってくれない。帰ると言ってもこの道はプラレールみたいに繋がってるから、しばらく経てばまた帰ってくる。だから僕は「一匹狼」という少しでも格好が付く奴を乗せて見送っている。かと言って、初めからこの言葉のカッコ良さに魅了されていたわけじゃない。俺はそんなに馬鹿じゃなかった。この言葉とは都合の良い関係でしかない。僕にしか利益が無いだろうに、ずっと付き合ってくれてありがとう。大学に入ったら、どっちかには必ず属すから、それまではどうか我慢して待っていて下さい。


登校して挨拶するのは廊下で会う教師だけ。教室に入って誰一人挨拶してくれない。とは言っても自分からするのは負けた気がする。挨拶してくれないと言うかみんなは俺が教室に入ってきた事さえも気づいてない。「エアコン効かないから早く閉めて」って言う目線だけは感じる。でも、一日の中でこの嫌悪など屁でも無い事だ。一番きついのは休み時間だ。秒針の音が短針の音と重なって聞こえる。他の男子達の会話を聞いて一般人の話の面白みが分からない自分で特別感を味わっている。話に入れない自分より、面白みが分からないがために話に入らない自分が大好きだ。大好きだけど大嫌いだ。

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