まず冒頭から表現力に満ち満ちた地の文に驚かされる。たったその数行だけで、読者をこの作品の世界に引き込んでしまう力を持っているのだ。また作者の和歌に対する理解や知識もまた素晴らしいものである。
元来私にとって和歌という物は酷く退屈で古臭いものであった。しかし、この作品に出会ってからはそれが変わった。比喩でもなんでもなく変わったのだ。こちらを圧倒する文章によって紡がれる物語に感銘を受け、自然と歌に対する興味が湧いてきた。通例や常識からは離れたその歌の『自分なりの解釈』とは何かを問うてくる本作は一読どころか何度でも読む価値があるだろう。その物語の主人公と共に解釈を探していくのも良い。
この小説の優れているところは和歌に関してだけではない。この作品が異能系のバトルアクションの要素も含有しているところまた注目すべきだ。一見結びつかないように感じるが、しっかりと本作では和歌を異能要素として落とし込めている。この点において、ただの知識のひけらかしとは一線を画していると私は思う。
長々と書いてしまったが、ここには書ききれないほどの魅力がまだあるのでそれは是非とも読んで皆さんの目で確かめてもらいたい。今後もこの作品の動向を追おうと思う。