兄さんの部屋の匂いが染み付いたぬいぐるみあげるって言ったら、一瞬だったよ

竜田川高架線

妹のクラスメイトの女子

 処分に困っている。

 勢いで買ったは良いが、結局は部屋の隅で虚無の顔になり座り込む、このクソデカ熊さんの処理に困っている。

 ぬいぐるみとなると、妙に捨て辛い。かと言ってこのままホコリをかぶらせて置くのも忍びない。

 

「おう! シコってんのか!?」

  

 と言って唐突に扉を蹴り開けたのは妹である。こいつはいかにもデリカシーがない。

 隣には、妹のクラスメイトの女子も居る。

 うるせえ、帰れ、出ていけ、と一蹴するも完全無視。ズカズカと部屋の中に入り込んで「これこれ」とクソデカ熊さんをモチモチし始めた。

 

「なんだよ。そいつ欲しいなら持ってけよ」

「要らない。けどー、今度の文化祭で使うから貰ってくわ」

 

 そして嵐のように去っていった。

 

 そして妹に「良いから来い」と言われてやってきた文化祭。

 一昨年まで通っていた高校で、世話になった先生に挨拶してから、妹が居る教室へと向かった。

 如何にもなメイド喫茶。

 

 自覚があるくらいには顔を青くして入る。妹のコスプレとかいう汚らしいものは絶対に見たくない。

 だが良かった。最初に目に入ったのは、よく家に来る妹のクラスメイトだった。

 慣れてないのか、疲れているのか、ボソボソと席に案内され、メニューを渡される。

 特に腹も減っていなかったのでコーヒーだけ頼んだ。

 

「あ、あの、美味しくなる魔法……かけても……」

 

 あ、うん、どうぞ

 

 黒のコーヒーに美味しくなるも何も無いだろうが、ボソボソとした萌え萌えキュンを頂いた。

 見てるこっちが辛くなってくる。

 

 さて、このメイド喫茶であのクソデカ熊さんをどう使ったのか。部屋の中を可愛らしく見せるためにか、確かにぬいぐるみ等諸々と置かれているが、あのクソデカ熊さんは見当たらない。

 

 後で妹に聞いてみた。

 

「あれね、あの娘にメイド服着せるために使ったの」

「は?」

「最初は凄く嫌がってたんだけど、兄さんの部屋の匂いが染み付いたぬいぐるみあげるって言ったら、一瞬だったよ」

 

……は?

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兄さんの部屋の匂いが染み付いたぬいぐるみあげるって言ったら、一瞬だったよ 竜田川高架線 @koukasen

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