【KAC20232】思い通りにならないから可愛い

香アレ子

第1話

 私はぬいぐるみが好きだ。

 ぬいぐるみスペースにはところ狭しとぬいぐるみが並ぶ。そこに新入りが入った。

 と言っても、それはぬいぐるみではなく、生きている猫だ。ひょんな事から我が家にやってきた保護猫である。まだ小さい。

 それまでの子はぬいぐるみなど見向きもしなかったが、今度の子は違う。真白い子猫がぬいぐるみに埋もれて寝ている様子は、ずいぶんと愛らしい。

 時折足や尻尾がちょこちょこと動く。ふかふかの上にふわふわが乗っている光景は、それだけで癒された。

 ある日、ボタンが落ちていた。所謂くるみボタンだ。ぬいぐるみスペースの前。なぜこんなところにボタンが……と思ったが、その時はまぁ良いかと、ボタンが無くならないよう瓶に入れた。

 数日後、またボタンが落ちていた。またくるみボタンだ。首を捻りながらまた瓶に入れた。

 そんなことが何度か続いたある日、ぬいぐるみに掃除機をかけようと持ち上げると、何かが落ちた。

 下を見るとボタン。なぜ……? 改めてぬいぐるみを見ると、その顔にあるはずの目がなかった。

 そう、くるみボタンはぬいぐるみの目だったのだ。

 犯人は自明。新入りの猫である。毎日せっせと齧り付いてぬいぐるみから目を取っていたらしい。

 猫にとって、ぬいぐるみの目は何か異物に見えたのだろうか。

 目の修理は、裁縫が得意でない自分には結構な重労働だった。片方目が見つからないなんてこともあり、いまだに直っていない子もいる。新入りが来たばかりに、ぬいぐるみ達には申し訳ないことをした。

 そんな新入りも14歳。人間で言えばおじいちゃんで、もうぬいぐるみの目を齧りとったりはしないが、まぁ何をしても可愛いので仕方がないと思う。

 一体だけ残っていた直せていないぬいぐるみも、綺麗に直してもらった。大きいので、私の腕では手に負えなかった子だ。

 被害者は出なくなったが、それが寂しいと感じてしまうから、始末に負えないと思う。

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